かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

小津安二郎監督『晩春』(1949年)


晩春 [DVD] COS-021
地震の起こる前、雑誌「新潮45」が、原節子15歳の出演映画『生命の冠』を付録にしていたので、購入して見た。予想はされたが、案の定、原節子の出番は少ない。それで、この映画を見たあと、もっと原節子の映画が見たくなった。


で、比較的最近『麦秋』、『東京物語』を見直しているので、今回は『晩春』を借りてみた。


小津安二郎監督の映画にはじめて原節子が出演した記念碑的な作品でもある。



父(笠智衆)と娘(原節子)は、北鎌倉で暮らしている。仲のいい父娘で、不自由のない生活をしているが、父はそろそろ娘を嫁にやらなければ、と考えている。


世話好きな叔母(杉村春子)が、いい縁談の話をもってきたので、この話をまとめたいとおもうが、娘は乗り気でない。


結婚しても、お父さんとのいまの生活より幸せになれるとはおもわない、と、娘はいう。


娘は、父に縁談の話があり、父が再婚するかもしれない、とひそかに疑っていた。父は、その誤解を利用する。自分がさも再婚するかのようなふりをして、娘に結婚を承知させる。



その後、小津安二郎が何度か自分でリメイクしていく、その原型的な作品である。


しかし、原節子の美しい笑顔と、怒ったときの般若のような険しい表情の変化など、その後のリメイク作品にはない、緊迫感が漂う。


笠智衆原節子の父娘の感情の交流が強いので、京都にいる父の友人(三島雅夫)の登場シーンが、ホッと気持ちをくつろがせてくれる。おとなの寛容さとユーモアで生真面目な原節子を、ちょっとからかってみせる三島雅夫が、たのしい。



個人的なことだが、1949年というのは、わたしの生まれた年になる。その年に、こんな優れた映画が撮られていたのである。


当時の北鎌倉駅、鎌倉八幡宮。さらには、京都の清水寺竜安寺の風景が見られるのも、感慨深かった。


何回見ても、味わいが薄まることはない。名作中の名作である。