かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

周防正行監督『終の信託』(公開中)



10月27日の初日、東武練馬の「ワーナー・マイカル・シネマズ板橋」で見る。2回目の12時25分から見たが、空席が多かった。



終の信託」は、「つい・の・しんたく」と読む。周防正行(すおう・まさゆき)監督の『それでもボクはやってない』(2006年)に続く、社会的テーマを扱った作品。

朔立木(さく・たつき)の「命の終わりを決める時」に収録された同名小説をもとに、愛する事、そして命の尊厳を描いた周防正行監督の最新作。今日的な医療問題に触れながら良質な大人のラブストーリーが展開、周防監督の冴えわたる演出で、2時間20分の長尺を一気に見せる。



(「goo映画」の解説から)


ほんとうに一気に見せられた。


全編出ずっぱりの草刈民代から眼を離せない。『Shall we ダンス?』では、どちらかというと素材の美しさで登場した草刈民代が、今回は、美しさに加えて、演技で魅せてくれる。


こんなに一足飛びに、魅力的な女優になってしまうのは、やっぱり夫が優れた映画監督だからだろうか、とおもってしまう。


不倫相手の同僚医師(浅野忠信)に裏切られた女医(草刈)が、死と向いあう患者(役所広司)から心を癒されていく。


しかし、そういう「愛」のドラマという以上に、、、


「信頼できるのは先生だけだ。最期のときは早く楽にしてほしい」という患者の意思を実行しようとする女医が、その後「殺人罪」に追い込まれていく衝撃のほうが強い。


ムリな願いを託したものだとおもう。それならば、なぜ慎重に<一筆文章としてその意思を残しておかないのか>という素朴な疑問を、見ていて感じてしまう。


ならば、患者の死後、女医が殺人罪で追い込まれることもなかったろう。



それでもボクはやってない』のときにもかんじたことだけれど、『終の信託』も、細部がていねいにつくられている。


検察庁のなか、検察官の取り調べの様子、医療シーンのリアリズムが、事前の綿密な取材のうえに成り立っていることが想像される。並みの作品とは、はっきり違う。


検察官役の大沢たかおが、憎らしいほどうまい。終盤は、彼の表情、セリフのひとつひとつに釘づけになる。


なるほど、こうやって検察官は被疑者を犯罪者に追い込んでいくのか、とおもってしまう。


先日起こったネットの遠隔操作の事件でも、もし真犯人が「私が犯人です」のメールを送ってこなかったら、冤罪者を生んでいた。


まるでその手口を見せられているような検察官の言動が、映画に強い余韻を残す。