かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

宮本輝著『青が散る』を再読。


新装版 青が散る (上) (文春文庫)

新装版 青が散る (上) (文春文庫)


新装版 青が散る (下) (文春文庫)

新装版 青が散る (下) (文春文庫)


最初読んだのは、単行本が出たときで(ネットで検索したら単行本の発売は1982年)、すっかり、このストレートな青春小説にはまりこんでしまった。といっても、もうそのときわたしは結婚もしていたし、そもそもこの小説の登場人物の年齢をはるかに超えてしまっていたんだけど。


スポーツ無縁、学業無縁・・・・・ロックと映画が大好きで、お酒ばかり飲んでいた自堕落な学生時代を過ごしていたわたしには、遼平にも金子にも、なんにも自己投影するところがなかったのに。


遼平のモサーッとした、ニュートラルな感じは、わたしの好きな夏目漱石の小説『三四郎』の主人公・三四郎を連想したし、気が強く感情の起伏の激しい佐野夏子は、『三四郎』の美禰子と似ていなくもなかった。



今回は電子書籍で再読。


新設大学に入学するかどうか迷っている遼平の前に、真っ赤なエナメルのレインコートを着た美しい女性が立っている。

コートの色に合わせた濃い口紅が、わずかに幼なさを残した、だが彫りの深い人目を魅く顔立ちをいっそう引き立たせていた。遼平と娘はしばらく向かい合って立ちつくしていた。


このとき遼平は、まだ娘の名前を知らない。


遼平はこの娘に強く惹かれ、娘が目の前で入学願書を出したのを見て、続いて自分も入学手続きをしてしまう。


遼平の佐野夏子への一目惚れのはじまり・・・・・。


テニス部が大学生活のすべてのような遼平に、つかずはなれずの位置にいながら、呼び出すのはいつも夏子で、予定をすっぽかしてでも、全力で駆けつけるのは遼平、と決まっている。


翻弄されながら、遼平は、ますます夏子に惹かれていく。



後編、その夏子に好きな男性ができ、遼平を打ちのめす・・・・・。


さらには、、、


「きょ年の十一月、六甲の駅で、遼平私に訊いたでしょう? 夏子は男の人を知ってるかって。私、正真正銘の処女よって答えたの覚えてる?」


(略)


「でも、いまは違う。もう何遍も何遍も、田岡さんに抱かれたわ。真っ裸にされて、何篇も何遍も田岡さんに」


好きな女性からこんなことを言われたら、男はどうすりゃいいのか。遼平がかわいそすぎる!


夏子の言葉は意図的なのか、『三四郎』の美禰子のように、「無意識の罪」なのか。


青が散る』は、爽やかなようでいて、じつは残酷な青春小説だと、いまごろ気づきました。