川越を出て、新宿武蔵野館へ、フランス映画、ニコール・ガルシア監督の『愛を綴る女』を見にいく。
上映の12時まで時間があったので、近くの喫茶店で、武者小路実篤の『幸福な家族』(電子書籍)を読む。読むのははじめてではないけれど、電子書籍になっていたので、ひさしぶりに読んでみた。
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- 価格: 486円
ほとんどが会話と会話が連続していて、芝居の台本のよう。武者小路は、ストーリーが人物と人物の会話として浮かんでくる、というようなことをどこかでいっていたような気がするが、まさに『幸福な家族』は、のびのびと、ユーモラスで、機転のきいた会話の応酬で、物語がすすんでいく。
男性たちは、世の中に迎合しない頑固者、それでいて愛する女(ひと)には、まるで頭があがらない。女性たちは、謙虚で、かわいい。武者小路実篤の理想のひとだが、武者小路実篤でなくても、男性ならたいてい、こういう女性を恋人や妻にしたい、と憧れるような可憐さと賢明さをあわせもっている。彼女たちは、男性を尊敬しているけれど、じつは一枚看板が上。仏陀の慈愛で、その手のひらのなかで、男性たちを好き勝手をさせているようにみえる。
とにかくも、そんなふた組の男女が、結ばれるべくして結ばれる、という「虫のいい話」。男性は、ほぼ武者小路本人を彷彿。女性たちは、武者小路実篤が愛し、失恋した女性たちの結晶だろう。武者小路が、かつて愛した女性たちと、こうなればいい、こんな会話ができたらいい、そんな彼の空想を集大成させたような小説。
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『愛を綴る女』は、愛に激烈な女性が主人公。のっけから立ち小便している牧師に愛を告白して、観客をびっくりさせる。『幸福な家族』の可憐な女性たちとは、あまりにもちがいすぎる。娘の素行を心配した両親は、手堅いスペイン労働者と結婚させるが、激烈な女性は、夫へ愛がないことを告白し、性的な処理は、娼婦ですませるように伝える。あげく、腎臓結石の療養で、温泉へ滞在するが、そこで出会った帰還兵に熱をあげて肉体関係を結ぶ。
激烈で官能的なガブリエルを演じるマリオン・コティヤール。
あんまりも、の展開だが、激烈な女を演じるマリオン・コティヤールが魅力的。自分の強い欲望を、自分でも制御できない哀しさを奔放に、繊細に演じる。