かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

永井荷風著『浮沈』と映画『希望のかなた』(12月25日)。

12月25日、月曜日。川越を出て、渋谷のユーロスペースへ、アキ・カウリスマキ監督の『希望のかなた』を見にいく。


東武東上線、山手線とも、車内で本を読むのがふつうだけれど、今日は眠くてしかたがなかった。早く起きたせいかもしれないけれど、いつもより特別に早かったわけでもなく、時々こういう強い睡魔で頭がはっきりしないことがある。



渋谷駅を降りて、東急本店の近くの喫茶店で1時間ほど読書。永井荷風著『浮沈・訪問者』を読む。



浮沈・来訪者 (新潮文庫)

浮沈・来訪者 (新潮文庫)


Amazonから古本の文庫を取寄せたものだが、活字が小さい。いまの文庫本はこんな小さな活字を組まないが、むかしは岩波文庫などおそろしく文字の小さな本がある。これに対応するために、100円の老眼鏡も「1.0」から「1.5」へ、一段度の強いものを買って、携帯している。その老眼鏡をつけて荷風を読んでいるが、いま読んでいる「浮沈」は、おもしろい。


主人公の「さだ子」の戦時中のいわゆる浮き沈みの人生が描かれていくが、永井荷風がこれを書いたのは、まさに戦争のさなか。戦意高揚の文学を書かなかった荷風は、この小説を発表するあてもなく書き続け、戦後になって、読者の手に届いた。小石川、芝公園など、東京の各所が舞台になっているのも、東京散歩の創始者永井荷風らしくて、たのしい。



11時より、アキ・カウリスマキ監督の『希望のかなた』を見る。しかし、電車のなかから続いている睡魔は映画がはじまっても続き(むしろ映画館の暗闇で加速し)、前半は意識が朦朧とするなかでの鑑賞となってしまった。


内戦が激化する故郷シリアを逃れた青年カーリドは、生き別れた妹を探して、偶然にも北欧フィンランドの首都ヘルシンキに流れつく。空爆で全てを失くした今、彼の唯一の望みは妹を見つけだすこと。


ヨーロッパを悩ます難民危機のあおりか、この街でも差別や暴力にさらされるカーリドだったが、レストランオーナーのヴィクストロムは彼に救いの手をさしのべ、自身のレストランへカーリドを雇い入れる。


そんなヴィクストロムもまた、行きづまった過去を捨て、人生をやり直そうとしていた。それぞれの未来を探す2人はやがて“家族”となり、彼らの人生には希望の光がさし始めるが…。


(『希望のかなた』の公式サイトより)
http://kibou-film.com


安倍総理が外国記者から難民についての質問を受け、移民ととりちがえて答えていたことがあった。総理がこれではどうしようもないが、一般に日本人は難民についての知識が希薄。『希望のかなた』を撮ったアキ・カウリスマキ監督の難民問題へ寄せる強い思いを、なかなか自分のものとしてとらえにくい。だから、カーリドの受ける苦難がどういう民族的・国家的問題か、大きな視点のわからないまま見てしまった。しかも、それにくわえて前半は眠くて眠くて・・・。



後半はおもしろく見た。思わず笑ってしまうユーモアを含んだ善意が主人公の厳しい状況下に置かれた緊張をやわらげてくれる。それと、全編にわたって流れる(というよりそのまま演奏シーンが出てくる)、音楽がよかった。



主人公のカーリドを演じるシリア人俳優・シェルワン・ハジ 。



中央が経営者・ヴィクストロム(サカリ・クオスマネン)。この飲食店の経営者・従業員が、爽やかな善意で笑わせてくれる。


希望のかなた』予告編↓
https://www.youtube.com/watch?v=vkPBj5jfua0



帰りは、センター街の立食い寿司へ寄る。寿司とともにハイボール、緑茶ハイを飲んで、アパートへ帰る。