かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

祝・つげ義春の新刊『つげ義春 名作原画とフランス紀行』。




じつはまだ参議院選挙中の話。


Rさんから、
つげ義春の本が出たの知ってますか?」という連絡をもらった。


「何、知らない!!」


つげ義春の本は新しく出る、といっても、過去出たものを表紙を変えたりして、新しい本のように出版されることがある。わたしはレコードでも本でもそういうものをコレクションする趣味がない。

つげ義春 名作原画とフランス紀行』


しかし、これは、まぎれもなくつげ義春の新刊」だった(Rさんに感謝!)。


しかも82歳になったつげさんが、はじめて外国へいったというのだ。それもよりによってフランスに、だ。


つげ義春とフランス」の組み合わせは、「寅さんとドイツ」と同じくらい似合わない(笑)。


でも、「男はつらいよ」シリーズで寅さんがとうとうドイツへいったように、つげ義春も、ほんとうにフランスへいったようだ。


ワクワクしながら、Amazonに注文し、本の到着を待つ。





[目次]


つげ義春、フランスを行く』


仏誌「ZOOM JAPON」インタヴュー
「目立ちたくないんです」


パリ、アングレーム同行記(浅川満寛


フランスでの原画展と父の作品について
(つげ正助)


つげ義春、帰国後に語る




「原画で読む七つの名作」


「沼」
ほんやら洞のべんさん」
「長八の宿」
「もっきり屋の少女」
「李さん一家」
「やなぎ屋主人」
「海辺の叙景」


「外国なんてめんどくさい」と即座に断りそうなつげさんが、いやいやながら承知するまでの経緯を、同行した浅川満寛「波」(2022年7月号)に書いている。

海外でのつげ義春作品の翻訳出版が本格化したのは2015年から。それまでもオファーはあり、2000年代から海外に劇画を紹介する仕事を始めていた私の元にも話はたくさん来たのだが、本人の「めんどくさい」という理由でいつも断られていた。


一転許可するようになったのは、オファーが増え、逆に断るのがめんどくさくなったかららしい。こういう気分の変化は事前に読めないので本当に苦労する……。


いずれにしてもそのおかげで2019年仏語版、2020年英語版それぞれ全7巻の全集刊行が始まり、ようやく各国語でつげ作品が読める状況になった。


アングレーム国際漫画祭での原画展企画が動き出したのもそうした変化に合わせたもので、仏語版の編集を自分が担当した関係で最初フランス側から「実現の可能性がわずかでもあるか?」と打診を受けたときには「まずないだろう」と答えた。国内でさえ実現していないのに、海外での展示を許可するはずがない。しかし念のため正助さんに聞いてもらうと、「父は意外と前向きでした」との返事。


またすぐ気が変わるのでは……といういつもの不安はあったものの、本人が前向きなら今のうちに進めるしかない。担当者が何度も来日して打ち合わせ、その後原画も引渡して、最終的に本人も渡仏する流れになったわけである。


つげ義春は、息子・正助さんに連れられ成田空港へあらわれたが、普段着のままで荷物は肩へかけるカバンひとつ。近所へお散歩、というようないでたちだ。


予想通り、空港へ到着するそうそうから「やっぱり行きたくない」と言い出す。


とにかく飛行機が出発してしまえば本人も従わざるえないだろうと、フランスへ向けて「つげ義春とその一行」は飛び立ったのだ。



1970年前後だとおもうけど、同級生から「ガロ』(大人向けマンガ雑誌。エロ系ではない)のつげ義春特集号」を「これ読んでみて」って渡されたのが最初。


1作1作読むごとに、いままで経験したことのないおどろくような「表現世界」が広がった。


小説では描けない世界だった。マンガでしか描けない表現だった。


それから、わたしはつげ義春の新作を待ったが、すでに活発な活動期はすぎていて、わずかな作品が、とびとびに発表される「寡黙期」にはいっていた。


マンガの新作は描かなくても(1987年が最後)、夢日記「旅エッセイ」が時々出版された。


わたしだけでなく、つげ義春ファンは、彼の文章をむさぼるように読んだ。

時間がとまってしまったような寂れた村、時代から取り残された人々。


写真と絵と文章で構成されたエッセイも、まさにつげ義春の世界」そのものだった。


つげ義春全集」は形を変えて何度か出版されている。


貧しかった時代、糊口をしのぐためだけに描いていた「貸本時代」の旧作も集められ、全集で新たに紹介された。



つげ義春の作品は映画化もされた。


しかし、静止画で描かれたつげ義春の寡黙な世界を、動画で表現するのはむずかしい。映画になって見るのはうれしいけど、正直いって、十分満足できた作品はなかった。


つげ義春のファンである映画監督が、敬愛する想いを捧げた、という作品になっている。


そして、おどろいたことに、何本かの作品には、ちょっとだけ、つげ義春本人も出演している


つげ義春 名作原画とフランス紀行』は文字量が少ないので(写真や原画作品も収録されている)、すぐ全部読んだ。そうしたら他のつげ義春の本も読みたくなった。で、Amazonkindle版を検索したら、ほとんど電子書籍化されている。とりあえず何冊かダウンロードした。


再読したら、懐かしいあのころの空気を想い出しそうだ。


そのときは、すぐつげ義春にかかりたいとおもったが、読み始めたら他の本を全部あとに回しそうで、じつはまだ、とりかかっていない。老後の楽しみにしようと(もう老後だけど)。







こちらはNHKでドラマ化されたつげ義春作品。いくつかの作品をひとつにあわせている。1時間20分。
www.youtube.com