9月6日㈬。炎暑。
池袋の「シネマ・ロサ」へ、森達也監督の『福田村事件』を見にいく。
「A」「A2」「i 新聞記者ドキュメント」など、数々の社会派ドキュメンタリー作品を手がけてきた森達也が自身初の劇映画作品として、関東大震災直後の混乱の中で実際に起こった虐殺事件・福田村事件を題材にメガホンを取ったドラマ。
(「映画.com」より)
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関東大震災の大混乱のなかで、正しい情報が切断された。
そんななか、人々のなかで、どこからか「朝鮮人が井戸に毒をいれた」、「朝鮮人や主義者(=社会主義者)が町で暴動を起こしてる」……などの流言飛語が飛び交う。
正確な情報がないのは警察・行政や新聞も同じ。彼らもそのデマを信じた。混乱が増幅する。
日常、朝鮮人を差別して、何かにつけ侮蔑的な行為をおこなってきた日本人には、無政府状態のなかで、彼らが、長く耐えてきた怒りから復讐をはじめた、という想像には、リアルな怖れの動機があった。
混乱状態のなかで、自分たちの町や村を守ろうと、町民や村民は、自警団を組織する。これがやがて暴走をはじめる。
自警団は、村を通る人々に、
「15円50銭といってみろ」
と詰問し、それに何か支障があると、朝鮮人や中国人だけでなく、日本人でも殺害された。
殺戮は、神奈川方面から東京を通過し、千葉、埼玉、群馬・栃木の方までひろがっていった。
(メモ:関東大震災の際、流言飛語から起こった朝鮮人虐殺については、吉村昭著『関東大震災』、加藤直樹著『九月、東京の路上で〜1923年関東大震災ジェノサイドの残響 』などが詳しい)
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「福田村事件」は、森達也監督がその素材で映画を撮る、という情報を見るまで、知らなかった。
【事件の概要】=香川県から薬を売りにきていた行商人(日本人)たちが、方言で発音がおかしかったからか、15人のうち幼児や女性を含む9人(妊婦のお腹にいた子も含めると10人)が村民(自警団)の手で殺害された。福田村は、現在の千葉県野田市。
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映画は、ドラマとしてどっしりしていた。頭でっかちではなかった。
登場する人物のひとりひとりが存在感を与えられて、しっかり呼吸している。
出演者=井浦新(いうら・あらた)、田中麗奈、東出昌大、永山瑛太、そして水道橋博士。わたしが名前を知らない俳優たちも大健闘。
森達也監督は、大震災の直後に起こった、差別意識が生んだ悲劇(人災!)を真正面から描いている。2時間釘付けになった。
虐殺シーンは、ことさら残酷さを売りにしていない。臆病なわたしでも、目をふさぐことなく見ることができた。
「人権意識」のない人々が、「おれたちが、この村を・この国を守る」という正義感に煽られると、思わぬ方向へ愛国心が肥大化していく。
森達也監督は、「福田村事件」は過去にあった黒い歴史ということではなく、100年後の日本の現状でも起こりうることを、裏テーマとして発信している。
もう一度いうと、映画『福田村事件』は、頭でっかちでなく、ドラマとしておもしろい。予備知識なく、映画としてたのしめる。そのあとで、人によっては、いまの日本に思いがいくかもしれない。
わたしが見た「シネマ・ロサ」は、ほぼ満席。これから、この映画『福田村事件』、もっと話題が広がりそうだ。ただし、大手メディアは、いつものように黙殺するかもしれないが…。
ひとりでも多くの人に見てほしい作品だが、そのひとりが小池百合子都知事!!(笑)。
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Enigma Filesさんによる「福田村事件」の背景(9分3秒)。
www.youtube.com