かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

2023年の積み残し映画2本(『市子』〜『パーフェクト・デイズ』)。

2023年12月16日㈯。
テアトル新宿」で、戸田彬弘(とだ・あきひろ)監督、杉咲花(すぎさき・はな)主演の『市子』を見る。


川辺市子は3年間一緒に暮らしてきた恋人・長谷川義則からプロポーズを受けるが、その翌日にこつ然と姿を消してしまう。途方に暮れる長谷川の前に、市子を捜しているという刑事・後藤が現れ、彼女について信じがたい話を告げる。市子の行方を追う長谷川は、昔の友人や幼なじみ、高校時代の同級生など彼女と関わりのあった人々から話を聞くうちに、かつて市子が違う名前を名乗っていたことを知る。やがて長谷川は部屋の中で1枚の写真を発見し、その裏に書かれていた住所を訪れるが……。




(「映画.com」より)
https://eiga.com/movie/99922/


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演技力の高い杉咲花と感情を抑制する型の若葉竜也(映画『街の上で』の印象)の共演。予告編から想像されるメロドラマに、この組み合わせがあうのかどうか?


個人的な好みでいうと、杉咲花の熱演が、メロドラマ的な展開にプラスされて、息苦しく感じた。涙の過剰は苦手。






12月30日㈯。
妻の運転で、「ウニクス南古谷」へ、ヴィム・ベンダーズ監督・役所広司主演の『PERFECT DAYS』を見にいく。





パリ、テキサス」「ベルリン・天使の詩」などで知られるドイツの名匠ビム・ベンダースが、役所広司を主演に迎え、東京・渋谷を舞台にトイレの清掃員の男が送る日々の小さな揺らぎを描いたドラマ。


2023年・第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、役所が日本人俳優としては「誰も知らない」柳楽優弥以来19年ぶり2人目となる男優賞を受賞した。


(「映画.com」より)
https://eiga.com/movie/99306/

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結局映画の是非の決め手は、自分の趣向にあうかどうか、かもしれない。その意味でいえば、『PERFECT DAYS』はわたしの好みにどんぴしゃりだ。


ほとんどセリフのない役所広司の、全身の動きと顔の表情の変化で見せる「小世界」。一瞬一瞬に心を奪われる。


毎日、朝から同じような日々が繰り返されるが、今日と明日は同じようでいて、同じではない。


彼は、狭いアパートに住んでいる。近くに「東京スカイツリー」が見える。浅草近辺なのだろう。朝早くから、規則正しい生活がはじまる。


アパートから清掃用具を積んで、首都高速に乗り、渋谷までいく。


車中では、彼の好きな曲を、カセットテープで聴く。


アニマルズ「朝日のあたる家」、オーティス・レディング「ドック・オブ・ザ・ベイ」、ルー・リード「パーフェクト・デイ」----が車中に流れる。彼の表情は、はじまる1日に向けて輝いてみえる。


彼の仕事は、渋谷各所にある公衆トイレの掃除。念入りに便器や床を磨く。若い同業者(柄本時生)は、「そんなにきれいにしなくてもよくないですか。平山さんは、この仕事が好きなんですか」という。平山は、寡黙に、小さな笑顔を浮かべる。


お昼は、同じ公園で弁当を食べる。ベンチから公園の木々をカメラに収める。同じ木々が、毎日同じようで、微妙に変化していく。平山の生活に似ている。


彼は仕事が終わると、再び首都高速に乗って、アパートへ帰る。そして銭湯のいちばん早い客になる。さっぱりしたあと、浅草駅の地下街にある居酒屋で夕食。ハイボールを飲む。明日早い彼は、深酒はしないようだ。アパートへ帰ると、寝床で文庫本を読みながら寝る。


つるひめさんも、ブログで指摘しているけれど、わたしもジム・ジャームッシュ監督、アダム・ドライバー主演の『パターソン』を想い出した。若い夫婦の、繰り返される1週間の輝きを描いた大好きな映画だ。


なにげない人生の日々が与えてくれる祝福を、彼はからだいっぱいに浴びて暮らす。


しかし、彼のこれまでの人生が順風満帆だったわけではないだろう。彼の表情がごくまれに陰ることがある。映画はそれを説明しない。過去の躓きや悲しみも含めて、いまの彼は人生を充実して生きている。


映画館いっぱいの音量で、ルー・リードを聴けるのもうれしい。楽曲の選択も含めて、日本映画にありがちな湿り気がない。カラッとしている。それが好きだ。


彼が寝床で読む文庫本は、幸田文の「木」。それが読み終わると、同じ古本屋さんで、ミステリー作家・パトリシア・ハイスミスの文庫本を買う。


買った本のタイトルを確認できなかったが、パトリシア・ハイスミスは、映画、ルネ・クレマン監督『太陽がいっぱい』やヒチコック監督の『見知らぬ乗客』の原作者で知られる。女性作家で、同性愛者でもある。彼の読書範囲が広いのにもおどろく。


「パーフェクト・デイ」日本語付き動画
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最後に、わたしが参考にさせてもらった2つのブログをあげておきます。


つるひめさんの「つるひめの日記」
https://tsuruhime-beat.hatenablog.com/entry/2024/01/04/202818


cinemakingさんの「映画貧乏日記」
https://cinemaking.hatenablog.com/entry/2023/12/27/205325