かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

小川洋子著「博士の愛した数式」

博士の愛した数式 (新潮文庫)
ringoさんがブログでご紹介くださった「博士の愛した数式」を読了しました。ringoさんがおっしゃるように、80分で記憶が白紙にもどる病気、というのが実はよくわかりませんでした。まあそれはお話の前提であって、深く詮索しなくてもいいのかもしれません。

天才的な数学者で変人、という博士のキャラクターはそれほど新鮮に感じませんでした。数学者が天才であると、こういうキャラクターになりがちなようにおもわれました。

博士のもとへいく家政婦さんは、とても聡明でこまやかな気遣いのできる女性で、こんなひとがいたらいいな、とおもいます。お料理も上手そうです。この家政婦さんと博士とのあいだに、信頼感が育っていきます。さらに、この家政婦さんは、シングル・マザーで、ルートとあだなされる小学生の子供がおります。この小学生が実に模範的な少年で、博士をいたわり、友情を結びます。

つまりよい人たちの感動物語でした。博士、家政婦さん、その子供=この3人の人物にリアリティは感じられません。しかし、小川洋子さんという作家はとても話のすすめ方が上手な作家だとおもいました。こういうメルフェンというか、善人ばかりが登場する虫のいいお話を、文章の力で読ませてしまうのです。登場する数式の話も、「ふんふんそうなのか」と読まされてしまいますが、挿話として出てくる野球の描写もうまいですね。試合の描写が出てきますが、野球の場面を文章で綴るというのはけっこうむずかしいだろう、とおもいました。でも、小川洋子さんは、その場面が思い浮かぶように、上手に描いております。

終わりは大体予想がついてしまいますが、こういう物語はこれ以外の終わり方はむずかしいので、それはそれでいいのでしょう。


さて映画はどうなのでしょうか。小泉堯史監督ですね。「雨あがる」、「阿弥陀堂だより」など、映画を見終えると爽やかな気持ちになれる作品を撮っております。ringoさんが触れておりましたが、予告編があまりに泣かせを前面に出しているようで、ひいておりましたが、小説はそれほど泣かせでもなく、小泉堯史監督の作品ならちょっと見てみたいな、というような気持ちになりました。