かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

jinkan_mizuhoさんへのコメントのコメントとして(里見弴の文学)

里見弴の小説は、以前全集を読んだつもりでいましたけど、これが実は全部でなくて、実質は選集だった、ということをあとで知りました。その後も、未読のものを見つけると、読んでみたりしていますが、多くの作品を一度に読んだものですから、忘れている作品もおおいです。「彼岸花」、「秋日和」も小津さんの映画の印象が強くて、今回読み返してみましたが、1年も経つと、また映画の印象だけが残って、忘れてしまいそうです(笑)。


里見弴を、現在読んで違和感があるのは、彼の小説は廓や茶屋、芸者、遊女などの話がおおくあって、今で見ると少し素材が古びて感じられることもあります。しかし、考えようによっては、落語に今はない日本の情緒を感じるように、古き日本を楽しむように、里見弴の文学を読むこともできるはずです。ただ、里見とんの文学は、廓や茶屋を書いても、見る目はセンチメンタルに曇ることはないですし、「むかしの日本はよかった」的懐旧情緒に陥ることもありません。人は「素人間」として、どうやって他人や自分に対して正直に生きていくのか、広い意味の「求道文学」になっているところがあります。


「胸襟を開く」という言葉がありますけど、里見弴の小説を読むとき、この言葉が一番ふさわしいような気がいつもしております。jinkan_mizuhoさん、里見弴流に、気持ちの赴くまま、いつか気楽に彼の文学に接してみてください。ブログでの書評も、楽しみにしております。