かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

黒木和雄著「私の戦争」

黒木和雄は、学徒動員で、宮崎県の都城(みやこのじょう)市の工場にいた。1945(昭和20)年5月8日、沖縄から飛来したアメリカのグラマン艦載機に奇襲される。学友10名が爆死(のち1名が病没)し、黒木は、奇跡的に助かる。

少し長くなりますけど、黒木和雄自身が被爆したときの状況を詳述しています。

食事中警戒警報が鳴りました。(略)いつものことでたいしたこともないだろうと思いながら、近くにある防空壕へ三々五々私たちは歩いていきました。隣りに連れ立っていた学友の宗方周大(むねかたかねひろ)君は勉強家で、そんなときにも岩波文庫を読みながら歩くのです。ふと上空を見上げると、曇天の雲間から黒いカラスがニ、三羽急降下してくるのが見えました。私は軍事訓練で叩きこまれていたこともあり、とっさに身を伏せました。瞬間、空気が引き裂かれるような轟音が鳴り響き、あたりが暗黒になるほど土砂が舞いあがりました。そして、小石などが降ってきました。これは「やられた」と直感したのですが、なにがなんだかわからない状態でした。土砂が降ってからだにあたる痛さに、私は「あっ、生きている」と、思ったのです。


あたりはにわかに阿鼻叫喚(あびきょうかん)の巷(ちまた)と化しました。すこし土煙が薄れたのでからだを起こしてあたりを見てみると、すぐ傍らに宗方君が尻もちをついて脚をなげだしていました。頭が、ざっくりと真ん中から割れて、脳漿(のうしょう)があふれてくる瞬間を見たような気がします。両手を私のほうにさしのべて、「助けてくれ」というようなしぐさをします。眼は空をみつめて放心して……。ただただ恐怖のあまり、私は立ち上がるやいなや後ずさりすると、そのまま夢中で走り出しました。(P31


美しい夏 キリシマ [DVD]
この友人を見捨てたという黒木和雄の体験は、その後も彼を苦しめ続ける。この体験をもっとも事実に近く(もちろん、フィクションのなかでだが)映画化したのが『美しい夏キリシマ』であるという。この映画の主人公は、ほぼ当時の黒木和雄少年と重なる。

本著『私の戦争』は、この『美しい夏キリシマ』のほか、『かよこ桜の咲く日』(ぼくは未見)、『TOMORROW/明日』、『父と暮せば』など、彼の戦争を題材にした作品の制作動機、撮影状況などが詳述されている。書きとどめておきたいことがたくさんありますが、今はここまでにします。