かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

次は、時間がなくてアップできなかったギンレイ・ホールの4本を一挙に!(笑)。

クリスチャン・カリオン監督『戦場のアリア』

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1914年、第一次世界大戦中のクリスマス・イヴ。フランス北部の最前線のノーマンズ・ランドでドイツ人テノール歌手の歌声にフランス将校が拍手を送ったことで敵国同士が一晩限りの「クリスマス休暇」に合意し、友好関係を結んだ……。密かに語り継がれてきた嘘のような実話の感動作!!

(「ギンレイ通信Vol.92」)

フランス、ドイツ、イギリスの3国の兵士が、クリスマス・イヴの日、サッカーに興じ、トランプをし、それぞれの故郷や家族のことを懐かしく語り合う。

ある国の兵士がいう。
「ああ、このまま戦争のことを忘れてしまえたらな」
すると、また違う国の兵士がいう。
「おれたちが戦争を忘れても、戦争はおれたちを忘れてくれないさ」

彼らは、クリスマスが過ぎれば、また銃撃で殺戮しあわなければならない。しかし、一度生まれた互いへの親愛の感情は、クリスマスが過ぎても消えるものではなかった。彼らはいつのまにか戦闘意欲を相手国に感じることができなくなっている。

夢のような話ですが、実話が題材だといいます。戦争さえなければ憎みあう原因をもたない彼ら。国を超えて笑いあう兵士たちを見ていると、戦争のもつ冷酷さが心に染みてきます。

映画を見ながら、以前ブログでご紹介した竹内浩三の詩を思い出しました。

ぼくが汗をかいて、ぼくが銃を持って。
ぼくが、グライダァで、敵の中へ降りて、
ぼくが戦う。
草に花に、むすめさんに、
白い雲に、みれんもなく。
力のかぎり、根かぎり。
それはそれでよいのだが。
わけもなく悲しくなる。
白いきれいな粉ぐすりがあって、
それをばら撒くと、人が、みんなたのしくならないものか。

ダニス・タノヴィッチ監督『美しき運命の傷痕

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22年前に起きた不幸な出来事で父親を失った三姉妹。彼女たちの母親が抱えるある秘密……。名匠キェシロフスキ監督の遺稿『天国』『地獄』『煉獄』の3部作の第2章を『ノーマンズ・ランド』のダニス・ノヴィッチ監督が緩急のリズム豊かに映画化した愛と再生の物語!!

(「ギンレイ通信Vol.92」)

長女(エマニュエル・ベアール)は、夫の浮気に苦しんでいる。次女(カリン・ヴィアール)は、恋人のない孤独な日々を暮らしている。大学生の三女アンナ(マリー・ジラン)は、父親ほども年齢の違う友達の父親を愛し、その男から別れを宣告されて動転してしまう。……3姉妹の精神風景の地獄が淡々と描かれていきます。日常的描写の積み重ねで見せていく作品。

夫の浮気で、嫉妬に苦しむ主婦を演じるエマニュエル・ベアールのけだるい表情、清楚で美しいマリー・ジランが、およそ恋人にふさわしくない初老の男に別れを告げられ逆上する姿が、記憶に残ります。


ニール・ジョーダン監督『プルートで朝食を


1970年代のアイルランドとイギリス。文化的、政治的転換期を迎えた渦中で、生まれてすぐ捨て子になった中性的青年の母親探しの旅を通し、無垢と想像力が変化していく力、善良さが世界を変えていく様を描く、シュールで、魅力的な優しさに満ちた感動作!!

(「ギンレイ通信Vo.92」)

ギンレイ通信の説明は以上のようになっていますが、「無垢と想像力が変化していく力」、「善良さが世界を変えていく様」、「シュールで、魅力的な優しさに満ちた」……そういった作品のおもしろさがぼくにはうまく伝わってきませんでした。

母に捨てられた主人公が、女装志向の強い男性であることがシュールなのかもしれませんが、いまや女装が好きな男性は珍しくありません。それが「母探し」という古典的テーマと合体したしたところが作品の「みそ」なのでしょうか。コミカルさを楽しめばいいのかもしれませんが、ぼくはこの作品肌合いがあわないようです。

ただロック志向の音楽がよかったのと、突然チョイ役で、ブライアン・フェリーが出てきたのにびっくり。予備知識がありませんでしたから。最初横顔が似ているな、とおもいましたが、髭をはやして、イギリスのキザ男にはよくありそうな顔にも見えましたので、「まさか」とおもっていましたが、正面を向いたら、間違いなくブライアン・フェリーでした。

このキザ男、一見見ると、ロキシー・ミュージックであの前衛的なロック・サウンドを生み出したヴォーカリストとは到底思えないから楽しい。しかしよくよく考えると、女装したロック・ミュージシャンとしては、ロキシーが草分け的存在だったな、と思えばなっとくです。ブライアン・フェリーの発見が一番うれしかった作品(笑)。


【注】:ロキシー・ミュージックは、グループ全員が奇抜な格好で登場しましたが、実際に美しく女装していたのは、キーボド・プレイヤーのブライアン・イーノでした。


ロドリゴ・ガルシア監督『美しい人』

誰もが囚われてしまう「幸福であることの境界線」それは、時に孤独や悲しみを呼び起こすが、その痛みがさらに成熟した痕跡となり人生の深みを与える様を、ハリウッドを代表する9人の女優により10数分間のワンシーン・ワンカットで描いた「彼女を見ればわかること」のガルシア監督の最新作!

(「ギンレイ通信Vol.92」)

ロドリゴ・ガルシアは、あの著名な作家ガブリエル・ガルシア=マルケスの息子さんだそうです。といっても読もう読もうと思いながら、ぼくはガルシア・マルケスの作品を1冊も読んでいないのですが。

9人の女性の人生の断面を15分程度に切り取った、映画の短編小説集のようなもの。その状況におかれるまでの原因は、説明されていない一編もあります。というより、大体が原因は不明なまま主人公の置かれている状況へ観客は対面させられます。主人公を突然襲う感情の動揺に、観客は想像をふくらまして推測しなければなりません。

共通しているのは、9人の女性がそれぞれ痛みを背負っているということでしょうか。でも、心の痛みなどというあいまいな説明は観念的で何の説明にもなりませんね。

それぞれの作品を直接味わってみないと、伝達しにくい映画でした。