かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

不覚にも涙が出てしまいました

チャン・ヤン監督『胡同〈フートン〉のひまわり』(2005年中国)

胡同のひまわり [DVD]

文革によって断たれた画家の夢を息子に託す父親と、そんな父親に反発しながらも同じ道を歩み始める息子の30年に渡る愛憎の日々を描く感動ドラマ。監督は「こころの湯」のチャン・ヤン


1976年、北京の下町。文化大革命で強制労働にかり出されていた父親が6年ぶりに帰ってくる。画家の夢を奪われた父親は、9歳の息子シャンヤンにその夢を託し、英才教育をほどこしていく。それまで母と2人で気ままな毎日を送っていたシャンヤンは、突然現われたそんな父親に反発を強めるが…。


(「all cinema line」より)


このあらすじを見ても、どこがそんなにいいのかよくわからないのですが、しかし、絶対にいい映画です。感動を強制されるわけではないのに、平静に見ていられません。ひとりで見て、よかったとおもいました。涙が勝手にこぼれてきます。男の涙はサマにならない(笑)。


父と息子の30年にわたる葛藤を……執拗に小さな事件を重ねて描いていきます。


画家を断念した父。近所の子どもたちと遊ぶのを禁じられ、才能がありそうだからといって、小学生なのに毎日絵を描かされ、子どもはたまったものじゃありません。


今の日本にはいない、むかしはいたかもしれない、頑迷ないやな父です。子どもを自分の意のままにするのが愛情だと信じ込んでいるのですから。


でも、北京に大きな地震が起これば、父は体を張って夢中で息子を守ります。少年の父への愛憎がゆれます。


父は、文化大革命で囚われた際、強制労働で手をつぶされ、画家を断念しました。少年は、一度はミシンで自分の手のひらを刺そうとするし、もう一度は花火を手につかんだまま爆発させて、絵が描けないからだにしようとします。


いっそ、父のように絵が描けない体になってしまいたい!


このお父さん(スン・ハイイン)の役者が渋い。見ていると、じわじわよくなります。最初ちょっと若いときは、イッセー尾形が若作りしているように見えましたけど、段々歳を経ていくと、森雅之に見えてきました(笑)。イッセー尾形は名優です。森雅之も名優です。どちらにしても、名優には違いありません。父役スン・ハイインの頑固ぶりが見ものです。


息子の恋人が妊娠すると、彼の知らぬ間に父がその恋人に会い、堕胎させてしまう。どうしようもない父ですね。さすがに息子はそれを知り、長年の怒りが爆発します。いくら父であってもそこまでは許せない……。


しかし、こうしていくら作品の内容を説明しても、この映画の感動には近づけません。小説は細部に命があるといいますけど、映画も同じだとおもいます。


数年前に『山の上の郵便配達』を見たとき、激しく心を揺さぶられました。その後、これはアジアの映画を見逃せないぞ、とおもって、なぜか韓国映画を続けて見ましたが……うむ?(笑) 流行とはそんなものかもしれません。


『胡同〈フートン〉のひまわり』は、傑作です。



(「新文芸座」にて」)