- 制作:アルゼンチン
- 脚本:カルロス・ソリン
- 出演:ファン・ビジェガス、ワルテル・ドナード、犬のグレゴリオ
あるところについていないオジサンが居りました。20年まじめに勤めたガソリンスタンドをクビになり仕事がありません。ある日人助けのお礼に大きな白い犬「ボンボン」を貰いました。貧乏なのにこんなでかい犬をと途方にくれたものの、それからはちょっとづつ良いことが起こりはじめました……。心あたたまるユーモラスなヒューマンドラマ!!
(「ギンレイ通信」Vol.103より)
アルゼンチンの映画がどういう特色をもっているものか、全然予備知識がありません。でも、『ボンボン』は、人生の機微をとらえた、優れた作品でした。
人間と動物の触れ合いというと、子供の観客でもわかるようなマンガ的な<感動>を想像しがちですけど、『ボンボン』はそういう映画ではありませんでした。センチメンタルな感動の押しつけがないんです。
大きな奇跡は起こりません。
大型犬のボンボンをもらってから、貧しくてお金がない初老の主人公ビジュガスに、少しずつ希望のようなものがふくらんできます。というのは、血統正しいボンボンが、種付け犬として大金を生み出す可能性が出てきたからです。
ところが、その夢もくずれてしまいます。ボンボンには何か精神的なトラウマがあって、性欲がないのです。
種付け犬としての<一攫千金>の夢はくずれました。住むところもなく、クルマの中で生活しているビジュガスは、仕事をみつけるためにボンボンと別れます。
ある女がビジュガスにいいました。
「犬というのは、心の友だね。いなくなってみるとその大切さがわかる」
ビジュガスは、ボンボンをとり戻しにいきます。そして、その時に、小さな奇跡が起こりました……。
この初老の主人公ビジュガスを演じるファン・ビジュガスが、絶品でした。終始たやさない困ったような笑顔。彼の笑顔が、無言のままでどれだけたくさんの感情を、ぼくらに語りかけてくるか。
「実際にパタゴニアで出会った一般の人を監督が気に入り、説得して映画に出演してもらった」(「goo映画」解説より)……のだそうです。
この映画の見どころは、ボンボンという大型犬のもつ存在感以上に、主人公ビジュガスの繊細な表情の中にある、といい切れます。
とはいえ、クルマのなかにビジュガスと一緒に乗っているボンボンのかわいらしさは、犬好きにはたまりません(笑)。
動物と人間の心の触合いを描いた映画はたくさんありますが、『ボンボン』は、とても慎ましい、そして静かな感動をもった作品だとおもいました。
★ギンレイホールにて