以前、片岡義男の『映画の中の昭和30年代〜成瀬巳喜男が描いたあの時代と生活』を読んで、示唆されることがあったので、もう1冊片岡義男が書いた映画の本を読んでみました。
今回、片岡義男は、原節子が戦後出演した11本の映画について、小説家らしい鋭い分析をくわえています。意見の全部が賛成できるかどうかということではなくて、凡庸な自分には思いもつかないユニークな視点から、作品にスポットをあてていることが、片岡義男本を読む魅力です。
対象になっている映画は、、、
■第1部:なぜ彼女は令嬢あるいは先生なのか
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著者の見る原節子がどのようなものか、少し長いですけど、引用しておきます。
美しさ、明るさ、華やかさ、色気、上品さ、才気、直感の正しさ、程の良さなど、あらゆる肯定的な価値を、単なる美や女らしさなどではなく、強い意志つまりくっきりと確立された自我として、日本の人たちは原節子のなかに見ていた、と僕は思う。彼女の姿や笑顔を、日本の人たちはそのようなものとして解釈し、受けとめた。視線をなにげなく伏せただけで、複雑微妙な感情の重みをごく当然のことのように表現することの出来る原節子という女優は、そのようにして表現されたもののなかにかならずある、ここでは独特なとだけ言っておくその独特な質において、ほかのすべての女優とは最初からはっきりと一線が画されている。