かぶとむし日記

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夏堀正元「虚構の死刑台〜小説・幸徳秋水」より〜続き(自分のためのメモ)



本からの抜粋。

日露開戦にむかってうわすべりしていく世論に敢然として抗して、反戦論を喧伝しようとする幸徳秋水写真)と堺枯川(さかい・こせん)のたぎるような情熱は、退社後(注:を参照)1ヵ月の11月15日には『平民新聞』の発行となって結実した。


その創刊号には、心の奥底からほとばしりでたような「宣言」が誇らかに掲載された。

  1. 自由、平等、博愛は人生世に在る所以(ゆえん)の三大要素也。
  2. 吾人は人類の自由を完からしめんが為に平民主義を捧持す、故に門閥の高下、財産の多寡、男女の差別より生ずる階級を打破し、一切の圧制束縛を除去せんことを欲す。
  3. 吾人は人類をして平等の福利を享けしめんが為に社会主義を主張す。故に社会をして生産、分配、交通の機関を共有せしめ、其の経営処理、一(いつ)に社会全体の為めにせんことを欲す。
  4. 吾人は人類をして博愛の道を尽くさしめんがために平和主義を唱道す。故に人類の区別、政体の異同を問わず、世界を挙げて軍備を撤去し、戦争を禁絶せんことを期す。


明治の圧倒的な強権政治によって、本来の人権と自由を無視してきずきあげられていた天皇制国家のなかで、この反戦、平和を叫ぶ「宣言」は異様といっていいほどに斬新で、正当なものであった。


【注】:幸徳秋水堺枯川は、反戦を主張していた『萬朝報(よろずちょうほう)』紙が、時代に迎合し、開戦支持に変わったとき、内村鑑三とともに、発行元である朝報社を退社した。


★★★

「吾人は飽くまで戦争を否認す。之を道徳に見て恐るべきの罪悪なり、之を政治に見て恐るべき害悪なり、之を経済に見て恐るべき損失なり、社会の正義は之が為めに破壊され、万民の利潤は之が為めに蹂躙せらる」


「吾人は戦争既に来るの今日以後と雖(いえど)も、吾人の口あり、吾人の筆あり紙ある限りは、戦争反対を絶叫すべし」


日露戦争には、西洋の事情をよく知る夏目漱石のような博識の知識人も、西洋の強国と競い、アジア侵略の野望を燃やす日本の政策に、憂鬱さを増してはいたものの、反戦までは唱えていない。漱石は、戦争を必要悪として容認していたようだ。


幸徳秋水反戦への熱情は、著者のいうように、異様に思えるほどぬきんでている。


★★★


幸徳秋水は、ロシアの市民へも反戦をよびかけた。原文は長文らしく、著者の要約を引用すると、、、

いまや日露両国政府は、それぞれの帝国的野望のために、むだな戦争を始めてしまった。しかし社会主義者の眼には、人種や地域や国籍の相違もない。諸君とわれらとは同胞であり、兄弟姉妹なのだから、断じて戦う理由などはない。諸君の敵は日本人ではない。愛国主義軍国主義が、諸君とわれらの共通の敵なのだ。


弾圧を恐れない発言に、編集人は捕らえられ、まもなく『平民新聞』は廃刊に追い込まれた。


自由にもの言う場は封じられ、幸徳秋水の周辺は、常に特高警察の眼がひかるようになる。