かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

『くちづけ』(1955年)


共通するのは、石坂洋次郎の原作で、3人の監督による3篇のオムニバス映画。


第1話と第2話は、石坂洋次郎らしい青春を賛歌する作品でした。


石坂は、戦後、男女の交際を明るく肯定的に描き、<新しい男女の付き合い方>を擁護するような青春小説を、次々発表しています。


一躍流行作家になった石坂洋次郎ですが、いま見ると、彼の描く男女交際の明るさには、暗部に蓋をしたような、しらじらしさが感じられてしまいます。


第1話と第2話は、その甘さが楽しめれば、爽快な青春映画で、だめなら、時代遅れの風俗映画と、見る人の感想が分かれそうです。でも、この時代の風景や街並みを見るのは、それだけでたのしいですね。



第3話の成瀬巳喜男作品だけは、ちょっと毛色が別。


青春映画ではなく、家庭小説で、医者の夫(上原謙)をもつ妻(高峰秀子)の小さな嫉妬を、軽いタッチで描いています。



妻は、家に雇っている看護婦(中村メイコ)の日記から、夫に好意をもっていることを知り、その看護婦を、近所の八百屋の青年(小林圭樹)に嫁がせるよう奔走する。


みごと妻の計画は成功したが、代わりにやってきた新しい看護婦(八千草薫)が素晴らしい美人なので、再び妻の嫉妬が再燃しそうな予感で、映画は終わる。



コメディだけれど、ピリッとした味わいがあるのは、成瀬巳喜男らしい。


一話一話のもう少し詳しい説明が、ringoさんのこちらの記事にあります。


ringoさんがおっしゃるように、成瀬巳喜男作品は、チンドン屋が出てくるとほっとしますね(笑)。