かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

読書メモ:斉加尚代著『何が記者を殺すのか』。


斉加尚代(さいか・ひさよ)さんは、毎日放送のテレビ・ディレクター。最近公開されて話題を呼んだ映画『教育と愛国』の監督。


それ以前、斉加尚代氏は、2012年2月橋下徹市長の囲み会見で、市長から激しい攻撃を受けた記者としても話題になったことがある。


[引用]2012年2月の囲み会見。本からの引用。

それは当時、人気絶頂だった橋下徹(はしもと・とおる)大阪市長の囲み会見でのこと。30分近く、こちらはただ答えが返ってきていないと感じて質問を重ねたつもりが、しつこく論争を挑んだ記者に見えたのか、市長から「勉強不足」「ふざけた取材すんなよ」などと面罵され、激しい言葉が飛び交うその時の動画がユーチューブで配信されるや、ネット上で大炎上する事態を招いたのです。


その取材のきっかけは、大阪の教育現場で起きた「国歌斉唱」をめぐる出来事です。大阪府議会は、前年の2011年6月、教職員に対し、府立学校の行事において『君が代』の起立斉唱を徹底させるため「国歌の斉唱にあっては、教職員は起立により斉唱を行うものとする」と明記する条例を成立させました。この条例は自民党も反対の立場でしたが、大阪維新の会の賛成多数で可決されます。そして迎えた大阪府立高校の卒業式。橋下氏と親しいひとりの民間人校長が、教員たちが「起立斉唱」する場面で、『君が代』を歌っているかどうか口元チェックまでして確認し、教育委員会に報告するまでに至ったのでした。


大阪府の教職員を対象に国旗国歌条例を作るよう教育長に指示した人物こそ、知事時代の橋下氏。当時から法や条例による「指揮命令」こそが政治だという独自の考えを持っていました。ダブル選挙で市長に鞍替えした橋下氏は、「口元チェック」を「素晴らしいマネジメント」と称賛します。


斉加尚代氏は、事前に府立学校の校長たちへアンケートを送る。その結果「起立と斉唱をひとつと捉えればよい」憲法が保障する『思想良心の自由』への配慮」「一律に歌わせることについてはどうか」などの回答を得る。それを橋下徹市長へ投げてみようとしたのだが、橋下氏はその質問には回答せず、論点をすげかえ、執拗で激しい攻撃を斉加氏にしかけてきた。




その様子が動画でアップされ、話題になった。
www.youtube.com








第1章


1)『映像‘15 なぜペンをとるのか〜沖縄の新聞記者たち』


百田尚樹自民党議員が、沖縄の新聞2社(沖縄タイムス社と琉球新報社への広告をとめて、潰してしまえ、といったことが話題になった。新聞やテレビへの口封じがはじまる。安倍晋三の周辺は、朝日新聞攻撃もはじめた。


[引用]「自民党のメディア攻撃」(一例)。

2016年2月、高市早苗総務省が、放送局が政治的公平性を欠く放送を繰り返したと判断した場合、電波停止を命じる可能性があることに言及しました。


2)『映像'17 沖縄 さまよう木霊〜基地反対運動の素顔』


沖縄の辺野古基地で抵抗しているひとたちは、現地のひとではなく、お金をもらってやっている、とフェイク報道したニュース女子は、同じテレビ人として見て、びっくりするような取材の杜撰さ。この番組はさすがに問題になり、その後打ち切られた。


[引用]「琉球人は日本から出ていけ」

2013年1月27日、米軍輸送機オスプレイの配備に反対する沖縄の41市町村ら沖縄代表団が「建白書」を手に東京・日比谷で集会を行った後、横断幕を持って銀座を行進しました。そこで翁長(おなが)氏(当時は那覇市長)を先頭にした列に罵声が浴びせられます。「売国奴」「中国のスパイ」「琉球人は日本から出ていけ」「死ね」。


翌年、知事に就任する翁長氏が「衝撃だった」と繰り返し語ることになるヘイトスピーチ。日本政府に対して「オスプレイ配備反対」という民意を伝えることが、安倍政権に盾突く「非国民」呼ばわりされ、「標的」にされてしまう。周囲には「無関心」で通りすぎる圧倒的多数の日本人がいる。翁長氏の心を突き刺したこの光景が、燎原(りょうげん)の火のごとく、沖縄デマとヘイトが広がる土壌を作り出すことに、私(著者の斉加氏)はまだ気づいていませんでした。



[引用]機動隊員が、基地建設に反対する沖縄住民を「土人」と呼んだ。

沖縄本島北部の国頭村(くにがみそん)と東村(ひがしそん)に広がる米軍施設、北部訓練場。2016年10月18日、ヘリコプター着陸隊(ヘリパッド)の建設工事が進むゲート前でフェンスの向こうに立っている機動隊員が、抗議する住民側に向かって大阪弁で毒づきました。そしてはっきりと聞き取れる声でこう言い放ちます。「どこつかんどんじゃ、このボケ、土人が・・・」。


3)『映像'17 教育と愛国〜教科書でいま何が起きているのか』


「教科書」に、加害の歴史を残すか削除するか。出版社によって方向が分かれるが、安倍政権が押すのは加害が「削除」された教科書。


その方針に従わない出版社の教科書は使わないように多方面から圧力がかかる。採用を決めている学校には、嫌がらせや抗議が殺到した。




[「教育と愛国」の企画意図]


[引用]

「教育目標の一丁目一番地に、道徳心を培う」とかねてから力説していたのは安倍晋三首相(当時)でした。彼の政治的念願だった道徳の教科としての復活が決まったこともこの企画を思いついた大きな理由です。


[引用]
[企画意図]

2006年、第一次安倍政権で見直された教育基本法。その改正教育基本法には「我が国と郷土を愛する」条項が戦後初めて盛り込まれた。教育現場は当時、「愛国心」を盛り込むと国粋主義につながるおそれがある、他国より自国を優先する意味合いが強くなる、などを理由に激しく反対した。それから10年の歳月が流れ、第三次安倍政権下で、幼稚園児が「教育勅語」を暗唱する映像が注目される事態になった。「教育勅語」を教材として使うことは否定しないと閣議決定までなされたいま、日本の教育は、どこへ向かおうとしているのか。


「幼稚園児が『教育勅語』を暗唱する映像が注目される事態になった」(→これが「森友問題」の発端だった)





『教育と愛国』は、テレビ放映され話題となる。さらに追加の取材をくわえて、映画化された。


(以上、第1章からの抜書き)