かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

黒木和雄監督「美しい夏キリシマ」

黒木和雄監督の戦争三部作の二作目だという。DVDには、映画本編以外に、黒木監督の原体験、映画への制作動機を説明した非常に見ごたえのあるドキュメンタリーが収録されている。それを見ると、黒木監督が何を映画で表現したかったかが鮮明にわかります。

実際に黒木監督は、戦時中、学童疎開していた先で空襲にあう。10人ほどの仲間と一緒だったという。目の前で親しい友人が爆撃を受ける。間近で顔が半分に崩れていく友人を置き去りにしたまま、黒木少年は怖くて、必死にその場を逃げて逃げて、逃げられるところまでひたすら逃げたという。その体験が忘れられない黒木和雄の心の傷(トラウマ)になる。

美しい夏キリシマ」は、黒木和雄の自伝ではないが、映画の主人公の少年の思いは、黒木和雄のつらい原体験をそのまま反映させているようだ。傷ついた少年の思いが痛切に伝わってくる。

静かな反戦映画だ。例えば沖縄戦を描いたような激しさはない。広島や長崎に新型爆弾が落ちた、という話が出てくるが、ここにはまだ爆撃もない。かろうじて、市民の生活が保たれている。それなのに、ひとりひとりの生活には、戦争が強く翳をおとしている。

監督が痛切に叫ばず、静かなだけに、戦争の不幸がじっくり伝わってくる映画でした。そして、同じモチーフが黒木和雄監督の「父と暮らせば」に引き継がれていくこともわかりました。