かぶとむし日記

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桐野夏生著『バラカ』を読む。


バラカ

バラカ


東日本大震災を素材にした壮大な構成をもつ小説。おもしろくて、読むのが遅いほうなのに、電子書籍で一気に読んだ。東日本大震災を題材にしている、といっても微妙に相違点もある。福島の原発は4基が爆発し、東京にも放射汚染が拡がり、首都機能は、大阪へ引っ越す。オリンピックは大阪での開催になる。現実と虚構が微妙に交錯する 近未来SF小説でもある。


読んだあとで、連載の開始が2011年7月だ、ということを知っておどろいた。もっとあとになって、この未曾有の災害と人災を書いたのではないか、とばくぜんとおもっていたので。


震災から8年後の日本も描かれている。原発推進派は、原発の被害を過少化しようとし、過去に葬ろうと画策する。だから、原発のことを思い出させるような人物、反原発の活動をするもの(彼らは弾圧を逃れるため、身分を隠して行動している)を事故に見せかけて抹殺するなど、怖い社会派小説でもある。


主人公の少女<バラカ>は、ドバイの人身売買で売られ、過酷な運命をさまようことになるけれど、東日本大震災以降は、被爆者のシンボルとして、利用されたり、抹殺されようとしたり、九死に一生の場面になんどか遭遇する。その息をのむような展開は、サスペンス小説のような緊迫感がある。


登場人物も豊富で、それぞれがひとつの章で重要な役割をもつけれど、もっとも醜悪な人間、<バラカ>の義父・川島の描かれ方は、すごくて、映画化されたらどんな役者がどんなふうに演じるのだろう、と想像が広がる。作品の規模が壮大なので、なかなか映画化もむずかしいだろうけど、いずれは誰かがその困難に挑戦するのではないか、とひそかに期待してしまう。