9月8日、土曜日。
妻を同行で、初台の「新国立劇場 小劇場」へ「シス・カンパニー公演」の『出口なし』を見にいく。まだTシャツ1枚であちこち出歩いているけれど、蒸し暑く、ねっとりとしたいやな汗をかく。
観劇は、あまり得意でない。映画になれているせいか、劇の、ふりの大きい演技がどうもしっくりこなかったりする。でも、映画で場面が変化せず、1つところで会話するような作品は好きで、「舞台劇のようだね」と感想をいったりする。
思いつく代表的な映画ではシドニー・ルメット監督、ヘンリー・フォンダ主演の『十二人の怒れる男』(1957年)。
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わたしが二十歳前後だったか、弟から「いい映画だよ」といわれて、テレビ放映されたのを見た。この作品で、密室劇のおもしろさにしびれてしまった。あとから、もともとは舞台劇の映画化だ、と知った。
というわけで、たまに舞台劇を見にいくけれど、あまり得意ではなく好奇心のほうが強い。今回『出口なし』をえらんだのは、多部未華子という女優のずっとファンだから。大げさな演技をしていないのに、目に強い力があって、豊かに感情表現できる子だなあ、と感心しながら見てきた。
好きな映画は、中村義洋(よしひろ)監督『ルート225』(2006年)。街はほとんどそのままなのに、姉と弟が、少しだけちがう世界に迷いこんで、両親と出会えなくなる、という奇妙な味わいの作品。多部未華子は、ちょっとお姉さんぶった女子中学生を自然な感じで演じていた。
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いま、YouTubeで全編見られるようですね。
Route 225 2006
もう1本、これは全体によく知られている映画で、長澤雅彦監督の『夜のピクニック』(2006年)。24時間かけて(昼も夜も)、80キロを高校生たちが歩く、という高校の慣例行事を題材にした作品で、ただひたすら歩く多部未華子がいい(笑)。多部未華子はこちらでは女子高生を演じている。
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2006年、多部未華子の実年齢は、17歳(撮影が1年前なら16歳かな?)。中学生役も高校生役もよかった。
★
『出口なし』
上映台本・演出:小川絵梨子。
原作:ジャン=ポール・サルトル。
キャスト:大竹しのぶ、段田安則、多部未華子。
とある一室に、それぞれ初対面のガルサン、イネス、エステルの男女3人が案内されてきた。
この部屋には窓もなく、鏡もない。
これまで接点もなかった3人だったが、次第に互いの素性や過去を語り出す。
ガルサンはジャーナリスト、イネスは郵便局員、そして、エステルには年が離れた裕福な夫がいたという。
それぞれがここに来るまでの話はするものの、特に理解し合う気もない3人は、互いを挑発し合い、傷つけ合うような言葉をぶつけ合う。
そして、この出口のない密室でお互いを苦しめ合うことでしか、自分の存在を確認する術もない。
なぜ3人は一室に集められたのか・・・。
ここで、彼らは何らかの救いを見出せるのだろうか?
サルトルという名前は、わたしのように60年代〜70年代に青春時代をおくったものにはおなじみのものであるはずだけれど、わたしは1冊も読んだことがない。文学者というより「実存主義」の哲学者、という漠然とした印象が強い。わたしは、哲学が苦手だったのでついに読みそびれてしまった。
しかし、この『出口』のスジはむずかしくない。三人の死者が鏡のない密室に集められ、次第に互いの我とか業のようなものが露わになって、感情が衝突していく。
むかし吉行淳之介のエッセイで、蝦蟇の油の採取法について読んだ記憶がある。
狭い部屋に蝦蟇をとじこめておくと、だんだんにじっとりと汗をかいてくる、そのしぼり出た汗が蝦蟇の油で、少量しか収穫できない。吉行は、小説ができるまでの苦しみをそれに例えていた。寡作な吉行の小説は、長時間部屋にこもって苦しんでも、蝦蟇の油のように、少量しか作品に結実しない、という例えだったような気がする。
出口のない部屋に、人間三人を閉じこめると、蝦蟇がじっとり汗をかいて油をだすように、互いの神経が煮詰まって、精神が裸になっていく、という状況は、究極的な人間の「我」とか「業」の命題で、理解できなくはない。でも、頭では理解できても、わたしはやっぱりこのドラマのいいたいことは、よくわからなかった。
ただ、大竹しのぶ、段田安則(よく知らなかったけど、やっぱりうまかった)のベテラン舞台役者のなかで、多部未華子は遜色なくわたりあっていた、とおもう。一生懸命な姿がとても可憐だった、ファンのわたしにはとくに(笑)。
★
1時間20分くらいの劇。外をみるといかにも雨が降り出しそうな天気。初台のどこかで食事をしてもよかったけど、そうすると雨になりそうなので、京王新線の「初台駅」からそのまま川越へ帰る。