かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

ジャック・ベッケル監督『モンパルナスの灯』(DVD)




モディリアーニを実名で描いた作品。ぼくは、モディリアーニのことをほとんど知りません。二枚目俳優ジェラール・フィリップが演じるように、モディリアーニ自身もかなりの美男子だったのでしょうか。作中でも、登場する女性たちにやたらもてます。酒びたりで、疲れ果てた無一文のモディリアーニが、若く美しいジャンヌ(アヌーク・エーメ)にいきなり愛されてしまうのも、今の感覚ではちょっと唐突な気がしました。

ぼくは、むかしは芸術家の横暴さを、繊細さからくる必然のものとして認める気持ちが強かったのですが、今はそれが独善的で段々いやになってきました。先日の映画『ブライアン・ジョーンズ ストーンズから消えた男』に登場するブライアン・ジョーンズ(元ローリング・ストーンズ)も、むかしのぼくはそういう破天荒な生き方に魅力を感じたりしましたが、いまはそれをおもしろくおもえません。

モディリアーニが、酒が原因であるからとはいえ、女性を殴るシーン……不快感を覚えす。また、自分の絵を安売りはしない、というこころは理解できても、よき友人の画商が、せっかく彼の絵の買い手を発見してきても、感謝はみせず、画家のプライドを強く表現する態度を見せる……「芸術家の純粋さ」を描き、監督は明らかに、観客に共感を誘っているのですが。

事実の伝記は知らないので、映画だけでいえば、文無しの酒びたり男に、若くして嫁ぎ、献身的に尽くすジャンヌに対しても、モディリアーニの、何か不遜な態度がいやでした。川へ飛びこんで死ぬとか、妻のこころを動揺させますが、芸術家はそこまでわがままが許されるのか。ぼくらは、この主人公がのちに著名な画家として成功することを知って見ているので、そのわがままを許容できるのかもしれませんが、ぼくにはそういう寛大な感覚が今はないようで、そのことにこだわりはじめると、どうも映画じたいに共感がもてなくなりました。

モディリアーニの才能を知りながら、彼を助けることなく死ぬのを待ち、死ぬと同時に作品を買い叩く、心の冷たい画商(リノ・ヴァンチェラ)も、映画的には重要な役で、最後はクライマックスのまま暗示的な終り方を見せますが、少し型にできすぎていて、こういう露骨な悪人の見せ場は、映画が制作された時代の古さも感じてしまいました。
いい時期に出会えば、心に響く名画なのかもしれないのですが。

アヌーク・アーメは、のちに『男と女』の女性主人公を演じるひとですね。若いときの姿を見られたのは収穫でした。