かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

森田芳光監督『サウスバウンド』を見る。

「税金など払わん、学校へなんか無理に行かなくていい。文句があるなら国民辞めちゃおー」子供の迷惑顧みず、ハチャメチャでブッとんだ大人が目前の“悪”に向かって突進する。すべてを捨てて突然沖縄へ移住し組織を相手に大立ち回り。子供から見たらとんでもなく過激な親父。ところが決して嘘はつかず、表面的な正義は振りかざさず、ある夢に向かって突き進む…そんな親父に、子供たちは、「ボクたちの親父って、すげぇ!」と親を見直してゆく。


(「goo映画」の解説から)


この『サウスバウンド』って、奥田英朗の原作が最高に面白いです。


奥田英朗というと、<精神科医・伊良部博士>(この変態キャラクターがめちゃくちゃ可笑しい)が登場する、『イン・ザ・プール』、『空中ブランコ』、がとにかく面白いので、この2作を読んでないひとにはお薦めですが、この『サウスバウンド』、面白さはいい勝負ですし、出来のよさでは2作を上回っているかもしれません。


】:精神科医・伊良部シリーズでは、『町長選挙』もあるが、まずは先の2冊を読んでみてください。


小説『サウスバウンド』は、上下巻にわかれています。


上巻は、上原家の子供たちの「いじめ問題」が主題。子供たちは、どのようにいじめられるのか、どうして大人の介入が役に立たないのか、そのことがとことん詳しく書かれています。かなり深刻で、リアルに。


学校の先生たちは、『サウスバウンド』と重松清の『ナイフ』(こちらも傑作!)をあわせ読めば、いじめられる子供たちの気持ちをかなりの程度理解できるのでは、とおもいますが、もう読んでいるのかな?


そうして下巻になると、上巻では、無職でぶらぶらしながら、過激な発言ばかりして子供たちを困らせているダメ父・上原一郎が、大活躍する。


この上原一郎がすごい! 伊良部博士もそうですが、こういうユニークな人物を、奥田英朗はどこから思いつくのだろう?


◆   ◆   ◆



森田芳光監督は原作を忠実に描いていました。とってもうまい監督なので、原作のおもしろさをちゃんと映像化しています。ただ時間的な制約もあるのか、また全体のバランスもあるのか、前半の<いじめのテーマ>は、拍子抜けするほどあっさりしています。ここに比重を置くと、作品全体が重くなりすぎるので、しかたないような気がしますが、ちょっとものたりない気がしました。


映画は、途中で後編の沖縄編にいきなり飛びますが、原作を読んでいないと、沖縄への移住の動機が唐突のような気がしますが、どうでしょうか。


ここは、原作を読まないで、先に映画をご覧になった方に感想を聞いてみたいところです。


前編の都会(東京編)では、無職で、喫茶店をやっている妻のお荷物のような父が、沖縄で暮すようになると、見違えるように生き生きと働くのに、子供たちはびっくり。


しかも、島民の意思を無視して、リゾートホテルを建設しようとする業者、役人、さらには警察権力を相手に、角材を持って大暴れする。許せぬものは、ひとりでも闘うのが、父・上原一郎だった。


敢然として闘う父と、それを迷うことなく応援する母に、子供たちは都会では見なかった父母の強い絆をまのあたりにする、この辺が後半の見せ場です。


出演者の豊川悦司(父)、天海祐希(母)もいいですし、子役もみんなうまい。田辺修斗(前編の主人公)は、『誰も知らない』(是枝裕和監督)の柳楽優弥(やぎら・ゆうや)にちょっと似ているような気がしました。


スジを紹介してしまいましたが、楽しむ障害にはならないとおもいます。原作、映画、ともに面白くて、痛快な作品です。


】:「前編」「後編」というような分け方をしましたが、便宜上で、映画本編にはそういう分け方はありません。しかし、最後の字幕では、前・後編の出演者を、「東京編」と「沖縄編」に分けて紹介しておりました。


ワーナー・マイカル・シネマズ板橋にて