かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

窪美澄著『雨のなまえ』が、おもしろい。


雨のなまえ

雨のなまえ


巻末に《2009年「ミマクリ」で第8回女による女のためのR-18文学賞を受賞しデビュー》と記載されているとおり、収録の短編のなかにも、エロティックなシーンが出てくるものもある。しかし、そういうシーンのないものもある。


そしてエロティックなものも、そうでないものも、おもしろい。


収録されている短編は、次の5作。


特に「雷放電」、「ゆきひら」、「あたたかい雨の放水過程」は、最後まで読んでギクッする。ミステリーのように、ストーリー的などんでん返し、というより、主人公への視点の急変におどろくのだ。


3つの作品は、主人公の主観に添ってストーリーが進んでいく。読者も、主人公の感性に寄り添う。


しかし、それが最後になって、どれが主観で何が客観なのかアイマイになってくる。その変化の描写が巧みで、おもしろい。


こういう主観が逆転するものは、映画では見たことがある。レティシア・コロンバニ監督、オドレイ・トトゥ主演の『愛してる、愛してない』(2003年)では、思いを寄せる男性との交流が、すべて主人公の女性の想像の世界であることが、あとでわかる。


新感覚のホラー映画として大ヒットしたM・ナイト・シャマラン監督、ブルース・ウィリス主演の『シックス・センス』(1999年)も、主人公の視線に添って映画は進みながら、最後にそれが思いもかけぬ逆転の展開になっていく。


窪美澄さんの短編は、映画ほど大々的などんでん返しではないし、もっとそこにこめられたテーマは繊細であるけれど、構成的には、以上あげたような映画を連想させるところがある。



・・・と、くどくど説明するとわかりにくいが、読んでみるとスッとうなづける作品で、もっとこの作家のほかの作品を読みたくなる。