- 作者: 窪美澄
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2013/10/18
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログ (17件) を見る
巻末に《2009年「ミマクリ」で第8回女による女のためのR-18文学賞を受賞しデビュー》と記載されているとおり、収録の短編のなかにも、エロティックなシーンが出てくるものもある。しかし、そういうシーンのないものもある。
そしてエロティックなものも、そうでないものも、おもしろい。
収録されている短編は、次の5作。
- 雨のなまえ
- 記録的短時間大雨情報
- 雷放電
- ゆきひら
- あたたかい雨の放水過程
特に「雷放電」、「ゆきひら」、「あたたかい雨の放水過程」は、最後まで読んでギクッする。ミステリーのように、ストーリー的などんでん返し、というより、主人公への視点の急変におどろくのだ。
3つの作品は、主人公の主観に添ってストーリーが進んでいく。読者も、主人公の感性に寄り添う。
しかし、それが最後になって、どれが主観で何が客観なのかアイマイになってくる。その変化の描写が巧みで、おもしろい。
こういう主観が逆転するものは、映画では見たことがある。レティシア・コロンバニ監督、オドレイ・トトゥ主演の『愛してる、愛してない』(2003年)では、思いを寄せる男性との交流が、すべて主人公の女性の想像の世界であることが、あとでわかる。
新感覚のホラー映画として大ヒットしたM・ナイト・シャマラン監督、ブルース・ウィリス主演の『シックス・センス』(1999年)も、主人公の視線に添って映画は進みながら、最後にそれが思いもかけぬ逆転の展開になっていく。
窪美澄さんの短編は、映画ほど大々的などんでん返しではないし、もっとそこにこめられたテーマは繊細であるけれど、構成的には、以上あげたような映画を連想させるところがある。
★
・・・と、くどくど説明するとわかりにくいが、読んでみるとスッとうなづける作品で、もっとこの作家のほかの作品を読みたくなる。