かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

コーヒーを飲みながら、夏目漱石『それから』を読む(12月10日)。

それから (新潮文庫)

それから (新潮文庫)




12月10日、月曜日。


渋谷の「ユーロスペース」へ、塚本晋也監督の『斬、』を見にいく。時間が40分ほどあったので、近くの喫茶店で苦いコーヒーを飲み、電子書籍で、夏目漱石の『それから』の続きを読む。


代助は、父からすすめられた結婚の話をずっと断りつづけている。今回は、父の怒りは限界にきていて、これを断れば、父がどんな決断をくだすかわからない。父から月々の暮らしのお金をもらって、贅沢な高等遊民の生活をしている代助にとって、生活の糧を失いかねない事態に。


さんざ迷ったすえ、代助は、自分の気持ちを三千代に告白する。三千代は、「なんでもっと早くそれをいってくれなかったの、残酷だわ」といって泣く。三千代は、代助の学生時代の友人の妻なのだ。しかも、代助は三千代がその友人と結婚するために労力をそそいでいる。いま、なぜ愛情を告白するのか?


漱石の女性は、決断すると強く、男は、いざとなると優柔不断(笑)。


泣いていた三千代が、「仕様がない。覚悟を決めましょう」と決断する。代助よりも、いざとなると迷わない。



「本来の自分に帰る」


代助は、友人に好きな女性を斡旋するという、過去の義侠心(偽善的友情行為)で、素の自分から復讐を受けていた。その誤った過去を修正して本来の自分をとりもどすためには、三千代の存在が必要だった。


「僕の存在には貴方が必要だ。どうしても必要だ」と、いいながらどこか逡巡する代助に、泣いていた三千代が、きっぱり「仕様がない。覚悟を決めましょう」という。男女の立つ位置がくるっと逆転するところがおもしろい。


ぜんたいに、漱石の小説の大きな魅力ではないか、とおもうのは、女性の会話。


「淋(さむ)しくっていけないから、また来てちょうだい」(三千代)
「知らないわ。馬鹿らしい。好きな人があるくらいなら、始めっからそっちへ行ったらいいじゃありませんか」(嫂)
「ずいぶんだわ、よくってよ」(姪)
「なんでそんなに、そわそわしていらっしゃるの」(三千代)
「あんまりだわ」(三千代)


現代女性の聡明なきびきびした会話も好きだが、漱石の世界に登場する女性の美しい言葉は、とても魅惑的だ。おとなしい三千代が魅力的にみえるのは、話す言葉の要因が70%くらいあるのではないか、とさえおもえてしまう。


あとは、いよいよ最後の詰めになっていく。ここまで読んで、映画館へ向かう。