かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

小説『暗夜行路』と映画『花束みたいな恋をした』(2月20日)。

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2月20日(土)、晴れ。


前日「イオンシネマ板橋」で、土井裕泰監督『花束みたいな恋をした』を、午前9時10分からの上映分、予約。


その日、アパートを少し早く出て、発券をすませてから、あいているテーブルで、志賀直哉『暗夜行路』の最終部分を読了。




暗夜行路 (講談社文庫)

暗夜行路 (講談社文庫)




なんどか読んでいるけれど、Kindle版ははじめて。読みやすかった。


鳥取の大山(だいせん中腹から主人公・謙作が眺める雄大な描写は、毎回読むたびに小説家の文章のすごみを感じないでいられない。一度も行ったことないのに、大山から見る朝の光景‥‥広い海と米子(よなご)の町が、次第に明けていくようすが、目に見えるように浮かぶ。


印象的なのは、そういう大きな描写ばかりではない。


大山へ登る途中の峠茶屋。


そこで見かける猫たちが可愛い。こういうなにげないところがこの作家のすばらしさ。

老人のいる左手の壁に寄せて、米俵が幾つか積み上げてあった。その後ろで先刻(さっき)から何かゴソゴソ音がしていたが、不意に一疋(ぴき)の仔猫がそこから米俵の上へ現れた。仔猫は両方の耳を前へ向け、熱心に今自分の飛出して来た所を覗き込んでいた。そして身体は凝(じっ)としているが、長い尾だけが別の生き物のように勝手に動いていた。すると、下からも丸い猫の手がちょいちょい見えた。


(中略)


二疋(ひき)の仔猫は俵の上で上になり下になりふざけていたが、そのうち誤って一疋が俵から落ちた。落ちた仔猫は急に興ざめのしたキョトンとした様子で哀れっぽい声でニタ声三声啼(な)いた。どこからか急いで親猫が出て来て仔猫の身体を嘗(な)めてやった。




(『暗夜行路』後編、第四)



午前9時10分から土井裕泰監督、菅田将暉有村架純主演『花束みたいな恋をした』を見る。







『花束みたいな恋をした』新予告





偶然な出会いからはじまった恋の5年間の行方が描かれる。


東京・京王線明大前駅で終電を逃したことから偶然に出会った大学生の山音麦と八谷絹。好きな音楽や映画がほとんど同じだったことから、恋に落ちた麦と絹は、大学卒業後フリーターをしながら同棲をスタートさせる。




(「映画.com)より)
https://eiga.com/movie/92102/


若いひとたちの恋愛映画をいまさらなあ‥‥という気持ちで二の足をふんでいたけど、映画評もいいようなので見にいく。最後に背中を押してくれたのは、つるひめさん(笑)。



で、結論。よかったです(笑)。


まず感じたのが、坂元裕二さんの緻密な脚本つくりのうまさ。ひとことひとことのセリフが小気味いい。


こんな出逢いがあったら、ほんとうに幸せだろう、っておもう。場面のつなぎもリズムがよくて酔わせてくれる。


ふたりは、本も映画も音楽も‥‥価値観が近く、いっしょに逢って話しているとたのしくてしかたがない。すぐに終電の時間になってしまう。


まさに運命的な出逢い。


もう、いっしょに暮らすしかない。


山音麦(菅田将暉八谷絹(有村架純の、同棲してから5年間の紆余曲折。彼らは、自分の趣味を十二分に発揮できた学生時代から、就職という社会の現実に立ち向かっていく‥‥。



わたしには、こんな純度の高い恋愛経験はない(笑)。しかし、こんな恋愛ならしてみたい、と憧れさせる力が映画にあった。


菅田将暉有村架純もよかった。とてもいい表情をする。有村架純は、もちろん可愛い!


恋愛濃度がグングン上昇している描写は、文句なくすばらしかったが、5年間の同棲で変質していく過程は、すこし概念的なようにも感じられた。



帰り、モンゴル料理「あむ亭」(ランチは安い!)でお昼。ホッピー2杯とみそラーメン。


小泉八雲の「怪談」を、Kindle版で読みはじめる。