かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

成瀬巳喜男監督「舞姫」

川端康成原作、映画「舞姫」(1951年)は、成瀬巳喜男に映画化の依頼があったとき、すでに新藤兼人によって脚本ができていたといいます。

そのためでしょうか、シンプルな筋立てを、ディテール(細部)の手厚い映像表現で見せるのを得意とする成瀬作品としては、「舞姫」は設定やストーリーが大時代に感じられました。

結婚してから20年、いまでも妻(高峰三枝子)には、夫(山村聡)以外に心に慕う人がいる。むしろ彼女はその人(二本柳寛)と結婚したかったのに、果たせぬまま現在の夫と結婚。夫婦の関係は冷えている。

子供は二人いて、上の息子は大学生(片山明彦)、下の娘(岡田茉莉子)は母の指導を受けながら、バレリーナになろうとしている。しかし、家庭は冷たく、家族4人がそのことで思い悩んでいる‥‥そんな、ある富裕な階級の、家族の危機を描いた作品です。

登場人物は、成瀬映画でなじんだ、町の路地のある家に住むひとたちではありません。彼らは鎌倉の広い庭のある邸宅に住んでいます。話の設定にも成瀬映画としては違和感を感じますが、さらに夫婦の亀裂について、家族4人が衝突するシーンなど、饒舌な翻訳劇を見ているような違和感を覚えます。

余分なセリフをギリギリまでカットして、映像から、観客が自由に話の状況を想像し、イメージを膨らましていく……そんな成瀬作品のすぐれた特質から考えると、劇的な筋立ても、しゃべりすぎる会話も、もう1つなじめぬまま見終わりました。