かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

山下敦弘(やました・のぶひろ)傑作短編集



8mmや16mmなどの短編が、以下のとおり、5編収録されています。

■「夏に似た夜」(1996年)8mm作品。上映時間10分。

若い営業マンが、飛び込み営業をする。マンションの一室にある小さな会社の中に案内されるが、案内人の女や、営業マンの相手をする、その会社の男の顔が見えない。それに、誰やら、部屋の奥で、後ろ向きに座り込んでいたりする。


奇妙な会社だ。


会話らしい会話はなく、戸惑う営業マンの<内面の声>が、画面から、ボソボソ語られるだけ。


途中、営業マンは腹の具合がおかしくなり、トイレへ駆け込む。出てくると、部屋に誰もいない。なぜか、あちこちに糞便が落ちていて、つい触ってしまう……。


奇妙な一室に迷いこんだ男の<違和感>が、説明ぬきに描かれる。主演は、山本剛史、営業マンの心中を語るナレーションは、山下敦弘自身。



■「腐る女」(1997年)16mm、上映時間9分。

ひとりの若い女性が、トイレで段々に腐って、ゾンビ化していく……理由もなく、ただそれだけを描いているが、だからというか、かなり怖い作品です。糞便の次は、舞台が全編にわたって、トイレ(笑)。女性が嘔吐するシーンもあって、とうてい輝かしいお話ではありません。



■「断面」(1998年)8mm、上映時間20分

狭いアパートで、むさくるしい二人の青年の会話が続く。ボソボソととりとめがないが、彼らは、仲がいいようだ。二人は、ついには、放屁をしあったりして戯れあう。晴れ晴れしい若者など、とうてい描かない、山下敦弘監督の低い視線がおもしろい。青年のひとりを、山下敦弘自身が演じている。



■「ヒロシとローラン」(1999年)Hi-8(何を意味するか、ぼくはわかりません)、上映時間15分。

コンパでひっかけた(?)らしい、外国人の女性を狭いアパートへ連れてくる。女は、まもなく酔いからか眠ってしまい、ひとり取り残された男の性的妄想がはじまる。


主演は、『どんてん生活』、『ばかの箱舟』、『リアリズムの宿』で、情けない男を演じたら右に出るものがいない、山本浩司(笑)。山下敦弘山本浩司のコンビの出会いの作品としたら、この小品は、歴史的でもある。ここでも、女性に対して大胆にはなれない、いじましい青年の妄想を、山本浩司が的確に演じている。



■「105円のハンバーガー」(2000年)DV(意味がわかりません)、上映時間15分。

山本剛史、山本浩司の、ダブる山本が出演。


3週間失踪していた、「マクドナルド」の<店長>(山本浩司)が、突然(のように)、二人の若いカップルのアパートへやってくる。


<店長>は、そのカップルの女性の、元恋人だった。


自分たちの恋愛が、<店長>失踪の原因かもしれない、と悩んでいた二人は、ホッとしてよろこぶ。自殺したのかもしれない、とおもっていたが、<店長>は、無事生きていたのだ。


そして、いつものように、すごく軽薄で、明るい(笑)。


3人は、
「ポテトはいかがですか」
「ドリンクはいかかですか」
と、<マクドナルドごっこ>で遊ぶ。


そこへ、アパートの住民である青年(山下敦弘)が、銭湯の帰りに、彼らの部屋を訪れる。


マクドナルドで、自爆があったそうですね。犯人は、失踪している<店長>じゃありませんか」


「いや、<店長>はここにいるよ」


と、見てみると、そこには誰もいない。


…………


いわゆる「奇妙な味の短編」だが、描かれるデティールが、あくまで日常に根ざしているのが、山下敦弘監督の作品らしい。会話や表情、動作が、すごくリアルです。



総じて、キメの粗い8mm、16mmのフィルムが、逆に緊迫感を漂わせています。一般に想像する、映画づくりに憧れる青年が、自己満足でつくった短編映画ではありません。


ホラーは、意味づけがなく、密室の中で、異様な光景がすすみ、かなり気持ちが悪いです。


また狭いアパートでは、ヒソヒソと、とりとめのない青年たちの会話が続き、四畳半に、ゴミ箱から出る異臭が染み着いてしまったような、息苦しさを漂わせて、現代ドラマで人気のありそうな、リッチで、スマートで、爽やかな青年像とは、対照的ともいえる、<日陰の日常>が描かれています。


しかし、糞便、放屁、嘔吐など、映画監督の、デビュー以前の作品としては、きわどすぎないだろうか(笑)。