5月10日㈮。
川越を出て、「池袋シネマ・ロサ」へ。イブ・ブランドスタイン監督『ジョン・レノン 失われた週末』を見にいく。
早めに池袋へついたのに、油断して道に迷い、映画館へついたのは、上映時間ギリギリになってしまった。
ビートルズのジョン・レノンと妻オノ・ヨーコが別居していた“失われた週末”と呼ばれるプライベートな日々の真相を追ったドキュメンタリー。
(「映画.com」より)
オノ・ヨーコは、ジョン・レノンとのあいだがギクシャクしてくると(ジョンのたびたびの浮気にヨーコががまんならなくなった、という説もあるけど、たしかではない)、別居することを提案をし、実行した。
そして、ジョンに悪い虫がつかないように、自分の秘書であった中国系アメリカ人のメイ・パンを、秘書&恋人&監視役としてジョン・レノンに同行させる。
1973年9月〜1975年1月まで…。この18ヶ月間が、のちに、ジョン・レノンの「失われた週末」と呼ばれるようになる。
名前のもとになっているのは、ビル・ワイダー監督の映画『失われた週末』(1945年。原題:「The Lost Weekend」)。
アルコール依存症の男が、深みからぬけられなくなり、幻覚に苦しむようすが描かれている。
オノ・ヨーコから別居をつきつけられた期間、ジョン・レノンは、悪友たちと飲んだくれていた、というエピソードがあり、ビル・ワイルダー監督の映画『失われた週末』とイメージが重なった。
しかし、ジョン・レノンにとって、オノ・ヨーコとの別居期間が、それほど無為の時間だったのだろうか?
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記憶レベルの話になるが、70年代の終わりまで、ビートルズ・ファンの多くは、ジョンとヨーコというカップルにあまり好感をもっていなかった。とくにオノ・ヨーコという女性に…。
それがどこから変化したかというと、1980年にジョンが射殺された。
その後、ジョンはしだいに神聖化されていく。そして、オノ・ヨーコも、ジョンの遺志を引き継く伝道者として、注目をあびていく。
わたしたちは、ヨーコが、「ジョンがここにいたら、きっとよろこんでくれたとおもいます」というような語りのシーンを、雑誌やニュース映像などで、なんど読んだり見たりしたことか…。
以後、オノ・ヨーコ公認のジョン・レノン伝記は、「ジョンとヨーコ」の愛の物語が強調され、それに反するジョン・レノンの本は、ヨーコから厳しい評価を受け、一時的な話題にはなっても、長く市場にはとどまらなかった。
そういう「ジョンとヨーコの愛の物語」的視点からみれば、「失われた週末」は、ジョン・レノンの「灰色もしくは、黒歴史の時代」のように見えなくもない。
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2008年に、メイ・パンが、写真のたくさんはいった本を出した。
そこには、ジョンを訪問していっしょに過ごすジュリアン・レノン(先妻シンシアとの子)や、不仲を伝えられていたポール・マッカートニーの姿も写されている。
ジュリアンや、ポールとのツー・ショット写真は、ファンをおどろかせた。
メイ・パンの本には、その他にも、ジョンを訪問したミュージシャンの写真が紹介されていた。
リンゴ・スター、キース・ムーン(ザ・フー)、デヴィッド・ボウイ、ハリー・ニルソン、マイルス・デイヴィスなど…。
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メイ・パンは、本のなかで「みなさんがおっしゃるような『失われた週末』ばかりではなかったのです」と書いていた。たしかに!
ほぼ同時期(2007年)に、ジョンの最初の奥さん、シンシア・レノンの『ジョン・レノンに恋して』という、本格的な伝記本も出版されている。
この本では赤裸々に、ジョン・レノン、ジョンの育ての親・ミミおばさん、オノ・ヨーコのこと、ジュリアンのこと、自分自身のこと…などが書かれていた。
その伝記のなかで、シンシアは、ジュリアンがジョンと会えるように、間をとりはからってくれたメイ・パンへ、感謝の気持ちをつづっている。
ジョンとヨーコが暮らしている時代には、実現できなかったことだった。
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遠回りしたけれど、この映画『ジョン・レノン 失われた週末』は、こうしたメイ・パンの側から見た、ジョン・レノンの物語。
メイ・パンという、陽気な若い女性の魅力。外部の人との、ひらかれた交流。「ジョンとヨーコ」の密室に閉じこもった時代とは対照的な、18ヶ月の「開放期間」が描かれている。
メイ・パンとジョン・レノン。
メイ・パン。
(画像は、すべて映画のなかに登場する写真です)
当時の映像・写真・証言のほかに、現在のメイ・パンとジュリアン・レノンのインタビューも撮られている。
母(シンシア)はメイ・パンが好きだった、とジュリアンがいう。
「やっと、ほんとうのことを話せた」(正確な映画の言葉ではない)と、メイ・パンがいう。
インタビューを終えたメイ・パンとジュリアンは、肩を組みながら街を歩いていく。カメラがふたりの後ろ姿を追う。
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当時オフィシャル映像として公開された「スタンド・バイ・ミー」(ベン・E・キングのカバー)。
www.youtube.com