かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

<ベスト・オブ・原節子>〜アーノルド・ファンク監督『新しき土』(1937年)


原節子 十六歳 ~新しき土~ [DVD]
突っ込もうとおもえば、いくらでも突っ込める日独合作映画。変な映画です(笑)。


ストーリーを乱暴に紹介すると、、、


ドイツへ留学して、西洋の個人主義に目覚めた男(小杉勇)が、ドイツ人の恋人(ルート・エヴェラー)を連れて帰国。男は、義理の父(早川雪洲 )の定めた日本人婚約者(原節子)との仲を破棄し、自由恋愛で得たドイツ人の女性と結婚しようとする。


【注】:この状況は、森鴎外の「舞姫」を連想しますね。


しかし、男は、帰国して、日本の風土や文化に触れるにつけ、再び、天皇を頂点とする、日本のすばらしい家族主義と伝統の精神にめざめていく。


失意の婚約者(原節子)は、火山の噴火口から飛び降り自殺しようとするが、男はそれを助け、希望の地、満州で、共に新たな門出を迎える。


★   ★   ★


富士山、桜並木、鎌倉の大仏、日本庭園、能、武道、舞踊、芸者……あらゆる日本が紹介されます。美しく見ごたえがありますが、なんかやっぱり変です(笑)。


でも、いまとなっては、それがこの作品のみどころかもしれません。


「日本という国が、見ようによってはこんな美しいものなのか」という感動もありますし、でも「こんな日本ってないだろぜ、おい(笑)」という、違和感もわいてきます。しかし、見知らぬ惑星のような日本は、やっぱりおもしろいのです。


キワメツケは、東京近辺に住んでいるはずの原節子が自宅の庭で遊んでいると、いつか裏山を降りて、そこには海の中に立つ、あの巌島神社の鳥居が見えてくるシーンでしょう。大胆にも、あの宮島が東京近辺の裏山にあるのです(笑)。


また東京の夜。ネオン街。そこには<阪神電車>の文字が大きく瞬いています。


★   ★   ★


アーノルド・ファンクは、山中貞雄監督の『河内山宗俊』(1935年)の撮影現場を見学していて、そこにいた少女・原節子に魅了されてしまったといいます。


なので、富士よりも、日本庭園よりも、仏像よりも、この映画の最大のみどころは、可憐な原節子、16歳の映像でしょう。


婚約者が帰国するというので、着物姿の原節子は、うれしくてはしゃぎながら、庭を飛び回り、あげくは石につまずいてコケてしまうなんて(笑)……コケたのは、演出なのかどうか?


着物、洋装、笑ったり、悲しんだり、鹿にえさをやって微笑んだり、ピアノや琴を弾いたり……一挙手一投足の可憐な表情としぐさは、まさに「ベスト・オブ・原節子」。この映像を見ていれば、ドイツ人の監督・アーノルド・ファンクの心を溶かしたのもなっとくです。


★   ★   ★


この映画で、アーノルド・ファンクは何を伝えたかったのでしょうか。


1年前、日独防共協定を結んだものの、ドイツ国民の大半は、東洋の隅にある日本がどんな国か知らない。


同盟国・日本とはどんな国なのか。


想像ですが、アーノルド・ファンクは、ナチスの依頼を受けて、ドイツの国民へ、親善国・日本をわかりやすく紹介するために、この映画をつくったのではないか、とおもいます。


今でいえば、『新しき土』は、日本という国のプロモーション・フィルムですね。


『新しき土』は、日本でもドイツでも大ヒット。原節子は、ナチスの招待を受けて、ドイツに渡ります。原節子が舞台挨拶に登場すると、どの劇場でも満場の喝采を受けたといいます。


【注】:この周辺の事情は、千葉伸夫著『伝説の女優原節子』に詳しく紹介されています。


【了】