6月29日、土曜日。雨。
「角川シネマ有楽町」へ、藤井道人監督の『新聞記者』(企画・立案、河村光庸)を見にいく。
午後3時10分の回をインターネットで予約。早めに有楽町の読売会館へ着いたが、エレベーターで映画館のある8階で降りると、ひとがごった返していた。
ネット予約の発券機の前にも、チケット売り場の前にも、列ができている。
現代の政治の闇に切り込んだ作品として、公開前から注目されていたが、この混雑状況で、それを実感。全国、147館で上映されているらしい。マイナー映画とはいえない。
座席は満員。満席のなかで映画を見るのはひさしぶり。
渋谷のユーロスペース(いまのところへ引っ越す前)で、原一男監督の『ゆきゆきて神軍』(1987年)が上映されたとき、どの回も満員で立ち見が出た。わたしも、立ち見で見た。それをちょっと思い出す。
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原案は、東京新聞の望月衣塑子記者となっている。しかし、望月衣塑子著『新聞記者』は、自伝的エッセイなので、映画のストーリーは、オリジナル。
医学系大学の新設、レイプ事件の犯人逮捕の取り消し、政権の意にさからうひとへのスキャンダル報道など、実在した事件に近い問題が扱われている。
この映画で怖いのは、内閣情報調査室(内調)。
政権に批判的な人物をチェックし、その人物の過去、現在の生活を調べあげ、汚点になりそうな事柄を探す。それでもネタがなければスキャンダルを捏造する。
わたしたちは、前川喜平氏の新宿風俗店への出入りを一面で報じた読売新聞を思い出さずにいられない(ことさらスキャンダラスに報じられた)。
また、前川喜平氏の講演を依頼した学校に文部省から横やりがはいった事件も忘れられない。前川氏のような問題人物になぜ講演を依頼したか、と学校に質問書が寄せられた。
そこまでやるのか、とおもったが、忖度しないひとに、政権はそこまでやる。
映画の中心のひとつは、政権の闇ともいえる内閣情報調査室。そこへ配属された若い官僚・杉原(松坂桃李)は、政権が問題と考える人物のスキャンダルを拡散する仕事を次々命じられる。「これが官僚の仕事か」、と杉原は苦悩を深めていく。
もうひとつは、委縮する報道のなかで、政権の真実を暴こうとする女性記者(韓国女優・シム・ウンギョン)の活躍。
彼女は、同じく新聞記者だった父が、スクープとして出した記事が誤報だとされ、自殺してしまった過去をもつ。誤報にしたのは政権からの圧力だった。
彼女は権力が牙を剥くときの恐ろしさを知っていた。
映画的にも、緊張感のあるサスペンスとしておもしろい。けっしてむずかしくないし、飽きさせない。人物やストーリーも、複雑でわかりにくい、ということがない。
こういう社会派映画にありがちなのは、テーマの重さにひっぱられて人物がうすっぺらで、作り手の思いだけが上滑りする例。この映画にはそれがない。
登場人物も、新聞記者、官僚のタイプを、類型化ではなく、何人かにシンボル化して描きわけている。
アメリカや韓国の、現実に起こっている政治的な事件を描いた映画を見るたびに、日本ではなぜかこういう骨のある映画は創られないなあ、とよくおもっていた。その不満をこの作品はいっとき解消させてくれた。
これをリアルと受けとめるか、妄想だと考えるかはひとりひとりの自由。でも、見てほしい!
できれば参議院選挙の前に(笑)。
『新聞記者』モデルはリアル政治 河村光庸さん 寺脇研さん 池田香代子の世界を変える100人の働き人 23人目+α
映画『新聞記者』の企画立案者である河村光庸さん、映画評論家、寺脇研さんがゲスト。聞き手は池田香代子さん。50分くらい所要時間があるので、興味のある方はごらんになってください。
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映画がおわってから、国際フォーラムで高橋真梨子のコンサートを見るため、移動。劇場からすぐ近くなので少しぶらぶらして、Rさんとの待ち合わせ時間を待つ。
Rさんは、わたしの妻が足の病気で行けなくなったため、代わりに同行してくれた。雨は小降りになっている。Rさんから到着した、というメールがはいる。