9月16日、月曜日。晴れ。
午前中は寝ころんで、藤枝静男著『志賀直哉・天皇・中野重治』を読んだ。
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昼少し前に妻の運転で、「ウニクス南古谷」へ、蜷川実花監督の『人間失格 太宰治と3人の女たち』を見にいく。
ひとことでいえば、極彩色で描かれた太宰治。で、わたしのイメージしている太宰とはちがっていました。
この映画の太宰は、蜷川実花監督の太宰治であって、小栗旬というかっこいい俳優が演じたもうひとりの太宰治だろう、そうおもいながら見ました。
蜷川実花監督の作品は、これまで『さくらん』(主演:土屋アンナ、2007年公開)、『ヘルター・スケルター』(主演:沢尻エリカ主演、2012年公開)の2本を見ているけれど、どちらも強い色彩が乱舞する作品で、わたしには内容よりも、そのカラー映像の印象のほうが強い。
『さくらん』は、花魁(おいらん)の話だから、彼女たちの衣装の華やかさは、作品にあっている。
『ヘルター・スケルター』は、トップ・モデルの話だから、強い色彩は主演女優の豪華絢爛の華やかさにふさわしい。
でも、今回の太宰治の物語は、この極彩色ににあった素材なのかどうか、好みがわかれるかもしれない。わたしには、太宰治と極彩色が一致しない。
小説で読む太宰と映画の太宰、「女にモテるダメ男」という意味では共通するかもしれないけれど、太宰治の含羞や弱さが、小栗旬には感じられない。肺を病んでいても、若くて力強い感じがしてしまう。
ところで実際の太宰治は、そんなに女性にモテたのだろうか?
太宰治の小説は、意外に恋愛を主題にした作品が少ないのではなかったか、とうっすら記憶をたどってみる。
恋愛小説だとおもって読んだ作品は、わたしにはなかなか思いあたらない。女性を一人称にした小説がいくつかあるので、女性っぽい印象があるけど、恋愛小説は思い浮かばない。
しかし、太宰治は、山崎富栄の前にも一度心中をし、そのとき女性は死に、自分は助かっている。たしかに周囲にいつも女性がいるようなイメージはある・・・。
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太宰治の作品テーマとは?
全般をおおうのは、恥じらいの精神。含羞のこころ。
偽善を意識しすぎて偽悪家を装ってしまう弱くてやさしいひとたちの物語。
敗北の美しさ。
わたしは、太宰の「家庭の幸福は諸悪の根源」という言葉にハッとしたことがある。
わたしたちは自分の家庭の幸せを必死に願うから、ひとのことには冷淡になる、ひとの不幸に安堵する、という逆説的な真実。
こういうさかさまの真実を描くのは太宰治の得意なところだ。
だから、妻が子供をおんぶして配給の長い列に並んでいても、太宰は知らぬふりをして、バーでお酒を飲んでいる。
お酒を飲みながらつぶやくのは「家庭の幸福は諸悪の根源、家庭の幸福は諸悪の根源、家庭の幸福は諸悪の根源」。
戦後、価値観や道徳がガラッと変わった。鬼畜米英は、友邦国となり、絶対的な神であった天皇は、人間宣言する。
しかし、従来の道徳や倫理が信用できなくなったときも、太宰治は変わらなかった。太宰は、もともと旧来の道徳の外にいた。
太宰の時代が到来する。
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そういった太宰文学の独自性を特徴づけるテーマは、映画からは感じられなかった。
この映画は、副題の「太宰治と3人の女」というタイトルがほんとうで、太宰治というモデルを借りて、じつは俳優・小栗旬がモテまくる作品なのだ(笑)。
「斜陽」のモデルといわれる太田静子を演じた沢尻エリカ。
太宰と心中する山崎富栄を演じた二階堂ふみ。
これだけ個性的で美しい女優が共演すれば、見ていて退屈することはないし、美男に美女三人の組み合わせに極彩色の映像。太宰治を意識しなくても、太宰の小説を読んでいなくてもたのしめる作品になっている。
宮沢りえは、とても抑制的な演技で妻・美知子を演じている。生活にくたびれた女というよりは、いちばん理知的な女性にみえる。正妻であることの強さとさびしさを、宮沢りえが好演している。
太宰と心中した美容師の山崎富栄。妻・美知子と愛人・太田静子に激しい嫉妬を燃やしながらまっすぐ太宰を愛し、最後は玉川上水に身を投げて太宰を独占する。
『斜陽』のモデル・太田静子は、自分と太宰の才能をあわせた子供を残した。
ポーズをとる太宰治。わりと有名な写真。
作家の太田治子さん。
ただ、没落華族の女性という儚(はかな)げな美しさをもったわたしのなかの太田静子さんと、活力がはじけそうな沢尻エリカ演じる太田静子はなかなかイメージが重なってくれなかった。
その他、ちょっとの出演ですが、坂口安吾を藤原竜也、三島由紀夫を高良健吾が演じている。
坂口安吾は好きな作家なので、あまりの似てなさにガックリきた(笑)。
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ところで、太宰治が最後に残した未完の小説『グッドバイ』が映画化され、2020年2月、大泉洋と小池栄子の主演で公開されるそうです。
どちらも、好きな俳優。どんな作品になっているのか、いまからたのしみです。